87発目 朝日に照らされる話


舞台IMG_1606

世の中には表と裏がある。
我々の住むこの社会にも
我々の知らない裏社会というものが
存在する。らしい。
本当にあるのならちょっとだけ
羨ましいではないか。

以前、少しだけ流行った
エリマキトカゲをご記憶だろうか?
敵と対峙した時に自分を大きく見せようとして
エリにあるとげとげしい皮膚を広げるのだ。
本来より自分を大きく見せようとする
小さい動物ならではの知恵だ。

落ち着いて分析すれば
さほど大きくないことに気づくのだが
そこは、自然界のほれ、あれだ
人間ほどの分析力の無い
虫の世界だ。

昔、居酒屋で知り合ったおじさんは
人間版エリマキトカゲだった。

たいした人物でもないのに
自分を大きく見せようとしていた。

『俺は裏社会の人間だ』というのだ。

私は裏社会の人に知り合いはいないが
えてして、そういう人は自分から
名乗らないのではないかと思っていたので
そのときも、
ああ、この人はエリマキトカゲだと
理解した。

曰く、
裏社会の人々のために
いろいろなものを運んでいる。
まあ、そうだな。裏社会の宅急便だ。

なんとなく、きな臭い話になってきたぞと
警戒心を強める。

何を運んでるかは言えないが
汚れたものを綺麗にするのが
俺の本来の仕事だ、と。

マネーロンダリングみたいなものかな?
と思いつつも、早くこの講釈を
終えてくれないかとも思っていた。
しかし、この思いを口に出して
本当に裏社会の人だったら
まずいなとも思ったので、
黙って話を聞いていた。
すごいですね!などと
適当に相槌を打ちながら・・・

数週間後、羽目をはずしすぎて
中洲で明け方まで飲んだ帰り道、
風俗街でおしぼりを回収する
おじさんを見かけた。

なるほど、綺麗にする仕事だ。
配達の仕事だ。裏社会だ。

でも何だろう、この違和感は。

朝日に照らされ汗ばむおじさんをみて
ちっとも羨ましいと思わなかった日、
私は少し成長した気がした。

サテト、ネルカ

合掌

“87発目 朝日に照らされる話” への3件の返信

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