私は常日頃から挨拶を重要視している。
例え見知らぬ人でも、目が合えば必ず挨拶する。
その時のちょっとしたコツとして
一言添えるという技がある。
例えば、朝の挨拶の際、
おはようだけではなく
今朝は涼しいですね。とか
今日は暑くなりそうですよ。とか。
ちょっとした一言があるせいで
その場の雰囲気がガラッと変わることって
結構あるもんだ。
その日、通勤のため乗った電車は
珍らしく人が多かった。
そのため、定位置を確保できず、
車両の隅っこの方に、押しやられた。
いつもはポールを掴んで揺れに備えているが
仕方ない。つり革を持つことにした。
私は背が高いため、つり革を持つと
背の低い人の顔あたりに肘がくる。
私の隣に立つ女性は、かなり背が低く
私の肘は、彼女のおでこを直撃した。
『すみません』そうつぶやいた私に彼女は
『混んでるから、仕方ないですよ
背が低いから、こちらこそすみません』
この一言で、彼女の素晴らしい人柄が
伝わってきた。形勢は一気に彼女に傾き
電車のその一角だけがやわらかな何かに包まれたようだ。
たった一言でその場の雰囲気がガラッと
変わった瞬間だった。
その後も、何度か私の肘は彼女のデコを小突いた。
いよいよ博多駅に着こうとしたその時、
電車が突然ガクンと大きく揺れた。
私の肘は彼女の鼻のあたりを鋭くついた。
とうとう彼女は我慢の限界が来たのか
たった一言、こう言った。
『んもう!』
ゴメンネ
合掌