その日も、私はお腹が痛いと嘘をついて
学校を休んでいた。母親は私の嘘に
気づいても気づかないふり・・
『勉強せんやったら、銭にならんよ』
と笑うだけで、私にはいつも優しい母親だ。
思えば、幼少の頃からあまり怒られた記憶がない。
長男だからか甘やかされて育てられたのか、
今となっては分からないが、私はとにかく
その優しい母が大好きだった。
ところがその日、母が怒った。
すぐ下の妹は、彼氏や友達と長電話したいと
両親に訴えた。まだ我が家はリビングに
黒電話が一つあるだけだ。
やさしい母は、そうね、お父さんそうしましょ、
と父を説得する。
あなたはどう思う、と一応私の意見も聞いてくる。
俺は、どっちでもいいよと答えるが
妹は嬉しそうに母を見ている。
父も合意し、いつもの電気屋に注文する。
数日後、つまり私がお腹が痛いと嘘をついて
学校を休んだその日、電気屋が電話を持ってきた。
いわゆるコードレスホンってやつだ。
親機をリビングに置き、子機を妹の部屋にセットする。
母が私に、その子機を持ってこう宣言した。
『どこまで通じるかちょっと行ってくる』
母は、子機を持って外に出ていき
そして100メートルほど家から離れたところに行ってから
走って戻ってきた。
『あんた、お母さんが電話しよる時にどこに電話しよるんね!』
よく話を聞くと、子機から自宅に電話をかけたが
話中だったとのこと。
優しい母が激怒した日の思い出だ。
そういえば今頃何してるかな?
ちょっと実家に電話してみるか。
ホノボノダロウ?
合掌