140発目 運ってなんだの話


舞台IMG_1606

右も左も随分遠くまで見渡せる。

左を見ると線路沿いに果てしなく
田んぼが続く。
正確に言うと『果て』はあるのだろうが、
この位置からは『果て』は見えない。

右を見るとちらほらと民家はあるが
ラフランス畑が続いている。

私は車の中から、この長閑な
田園風景を見ている。
さっきから踏切が鳴っている。

左右を交互に見渡すが列車の姿は
見当たらない。

山形県の米沢市に私が来たのは
入社時の研修以来だから5年ぶりだ。

その時は研修所に缶詰になってたので
米沢という町がこんなに長閑だとは
思いもしなかった。

随分、待たされているが時計を見ると
私が車を停めてからまだ3分そこらしか
経っていない。

特に急ぎの用事ではないのだが
元来、気が長いほうではないので
方向転換することに決めた。

踏切を背にして反対方向の
もと来た道を戻るが、バックミラーで
列車が来ないかどうか気にしている自分が
少しおかしく感じられる。

数百メートル進んで左折したが
まだ列車は来てない様だ。

きっと踏切が壊れてるのだな。
と、自分の判断が正しいと
言い聞かせる。

東に数キロ進んだところで
左手にまた踏切を見つけた。
こちらはカンカン鳴ってない。

よし!と思い切ってハンドルを
左に切る。
急げ急げ。
ようやく踏切にたどり着きそうになった
そのとき、踏切が下りだした。

ウソだろ?

私はまた、ここで数分待たされるのか?

ところが今度は左からやってくる
列車の姿を確認できた。
ホッと胸をなでおろす。

私の目前をたった一両の列車が
ゆったりと通り過ぎる。
中に乗っている乗客の顔すら
見えるほどのスピードだ。

いち、に、さん。
たった3人しか乗ってない。

私はこの3人のために
時間を無駄にしているのかと
考えると憤りさえ感じる。

しかし、この茶番ももう少しだ。

と、今度は右から列車が来る合図が
なりだした。例の赤い矢印だ。

結局私はそこで6分少々
待つことになった。

ようやく電車をやり過ごし
線路の向こう側に渡る。
予定より15分少々の遅れで
目的地へ向かう。

ああ、運の悪い男だな。オレは。
と少し自嘲気味に笑う。

事務所に戻る途中、先ほどの
線路の違う場所でまたもや
踏切に引っかかった。
もはや、私が来るのを
待っていたんじゃないかとさえ
思えてくる。

なんだか納得のいかない
一日を過ごしてしまった。

地元の社員にこの話をすると
一日に6本くらいしか走ってない
列車の3本に当たるなんて
逆に運がいいですねと
言われた。

私はある諺を
思い浮かべながら
もう一度笑ってしまった。

急がば回れ。

ウソヤン

合掌

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