141発目 失禁の話


後部座席

年齢のせいか、くしゃみをしたら
少しだけパンツが濡れる。
誰にも言わないで欲しいが
下半身が弱くなってるのは
否めない事実だ。

そういえば、失禁といえば
思い出すことがある。
二十歳の頃の話だ。

福岡の東の端っこに
犬鳴峠というネーミングで
失禁させそうな恐ろしい場所が
ある。
その峠を最頂部まで登ると
そこに若宮方面へ抜ける
トンネルがある。
犬鳴トンネルだ。

私は友人とナンパ目的で
北九州から福岡へ向かっていた。
高速道路代を惜しみ
下道で向かったのだが
乗っていた車は警察が喜んで
声をかけてくるような違法だらけの
車だったため、人目を避けて
国道は通らずに犬鳴峠をこえて
行こうと言う事になったと
記憶している。

ただし、このトンネルは
『でる』と噂されている。
何が?幽霊が、である。

気味が悪いな。
出そうだな、といいながら
若宮方面から福岡に抜ける
トンネルをくぐった。

トンネルを出たところに
公衆電話ボックスがある。
そこに女性が立っていた。

一瞬驚いたが、生身の人間だった。

友人は車を停め声をかけた。
町まで乗せていってあげようか?と。

女性は泣いていた。
そして我々の違法改造車に
乗り込むと安堵したのか
訥々と訳を話し出した。

彼氏と喧嘩をして暗闇の
トンネルの中で下ろされた。
めちゃくちゃ恐かったと。

博多駅近くまで乗せていき
女性をおろしたあと
我々は当初の目的どおり
ナンパスポットへ足を向けた。

運よくヒマをもてあました
女の子二人をナンパし
後部座席に乗せることに
成功した。

助手席に乗る私の後ろに
座った女の子が『キャッ』と叫ぶ。
どうした?と問うとその子は
『なんか、濡れてる』という。

我々二人は顔を見合わせた。
さっきの女性は幽霊だったんだと
今更ながらに恐怖がよみがえる。

女の子に経緯を説明する。
よくある怪談話のように
幽霊が乗った後は濡れてるじゃないか。
きっとそれだよと、やや興奮気味に
話す我々を尻目に、女の子の一人が
冷静にこう言い放った。

『おしっこくさいよ』

車を停め、後部座席を確認すると
確かにおしっこくさい。

ちきしょう。あのやろう
小便漏らしてたのか。

マジデビビッタ

合掌

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