136発目 正義感の話。


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子供にあまり勉強しなさいって
言うのもかわいそうな気がして
今のうちに遊んどくんだよって
言ってみるが、ふと思いとどまる。

あのかつての友人たちを思い出すと
やっぱり辛いかもしれないが
勉強はやっておきましょうという
結論に至る。

いつの世も、勉強だ。
勉強して知恵と教養を身に付け
それを実生活で活用してやっと
一人前に近づくのではないか?

中学3年生の受験を間近に控えた
丁度、今くらいの時期。
私は仲の良い女子から頼まれて
職員室に向かうところだった。

彼女は『ひとみ』といって
学年でも1・2を争うほどの美人だ。
ただ、あいにく私の好みのタイプでは
なかったので、男女の意識なく
お互いにフラットな関係を築けていた。

『受験のことで先生に相談がある』
という彼女はいつになく真剣な表情だ。

私は職員室に行けばストーブに当たれる
という単純な理由で彼女のお供をする。

先生の前に二人で座ると、おもむろに
ひとみが先生に噛み付かんばかりの
勢いで質問を繰り出した。
『先生!私、受かるやろか?』

そんなことは誰にもわからない
先生はきっとそう思ったに違いない。
でも、その女性の先生は厳しく
こう言い放った。

『あんたの受ける高校は名前が
漢字で書けたら受かるような
学校だから、あんたみたいなバカでも
合格するよ』

この言い方には私も驚いたと同時に
憤りを感じた。
特別にひとみの味方をするわけではないが
まあ、一種の正義感というやつだ。

『先生、そんな言い方は・・』

私が何か言おうとするのを右手で
制止し、ひとみはとうとう泣き出した。
そして先生に向かってこう言った。

『そしたら、先生。私ひとみって平仮名やけ
落ちるやん』

えっ?そこ?

私は振りかざそうとした正義感を
ポケットにもう一度しまうと
職員室をあとにした。

その日のことを思い出しながら
私は今日も息子に勉強を教えている。
まずは自分の名前を漢字で書いてみよう。

バカハ、ツミ

合掌

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