754発目 疑問を解消したいだけなのに注意したと思われる話。


中学生の息子の
サッカーの試合を観覧するため
娘とグランドへ向かった。

 

ちょうど前の試合が
終わったところで
息子とは別の中学の
サッカー部員たちが
こちらに向かって歩いてきた。

 

中学生とはいえ
背も高く、しかも
大人数なので
少し威圧的にも感じた。

 

顧問と思しき大人が
みんなを集めるように
一人の少年に指示をした。

 

『しゅうごっ!!!!!』

 

低く腹に響くような声で
一人の少年は発声した。

それに呼応するように
それ以外の生徒たちが
一斉に声を出した。

荒げた、と言い換えてもよい。

 

『うぃっす』

 

20名近くの少年たちが
一斉に発したその声は
地面を揺らすほどの
迫力があった。

脇に立つ私の娘が
怯えている。

 

しばらく試合の寸評を
先生が話し、いくつかの
注意点を全員に、した。
最後に今日はこれで解散だ、
気をつけて帰れよ、と
全員に告げた。

 

少年たちはまたも
声を一斉に発した。

 

『うぉううぉうしゃっしゃした!』

 

 

 

は?

 

なんて?

 

私と娘は顔を見合わせた。

 

『今のなんて言った?』

 

『わからんやったね』

 

『何かの略やろか?』

 

『お父さんは何て聞こえた?』

 

『またお越しくださいって』

 

『そんなわけないやん!
コンビニの店員やないんやけ』

 

娘のツッコミはいつも
正確だ。

 

確かに娘の言う通り
サッカー少年たちが
練習試合の後のミーティングで
顧問に向かって

『またお越しください』

っていうはずがない。

 

『じゃあ何て言ったと思う?』

 

『わからんけ聞いてくる。』

 

物怖じしない性格の娘は
サッカー少年の一人を捕まえ
聞いてきた。

 

『お父さん!
お疲れさまでしたって
言ったらしいよ』

 

『ああ、確かに
そう言われたらそう聞こえる』

 

すると向こうの方から
今度は女の子の声で
何か聞こえてきた。

 

『っちょ~』『っちょ~』
『っちょ~』『っちょ~』
『っちょ~』『っちょ~』
『っちょ~』『っちょ~』
『っちょ~』『っちょ~』
『っちょ~』『っちょ~』

 

『お父さん、今度は何やろ?』

 

『ちょ~ちょ~言いよるね。』

 

私は娘としばし考える。

グランドの向こうの隅、
テニスコートで練習中の
女の子たちから聞こえてくる。

 

彼女たちは2面あるコートに
広がり、向こう側からコーチが
打ってくる球をレシーブする
練習をしていた。

皆一様に、レシーブした後に
『っちょ~』
っと言っている。

 

『ああ、あれかな?
ナイス~みたいな
ことかな?』

 

娘が自分の予想を
私に披露する。

だが、その意見には同意できない。

もし本当にナイスが語源なら
どういじったらナイスがちょ~に
なるのだろう?

 

考え抜いた挙句、今度は
私が聞きに行くことになった。

ただ、私のようなオイサンが
いきなり練習中の女子中学生に
話しかけたりしたら
警察は呼ばれないにしても
怖いお兄さんが出てくる可能性がある。

私は向こう側にいるコーチに
声をかけた。

 

『練習中すみませ~ん』

 

コーチは手を止め
私に近づいてきた。

 

『はい、なんでしょうか?』

 

『いえ、あの。練習中に
大変申し訳ございません。
さっきから彼女たちが
言っている、ちょ~、の
意味が知りたくて声を
かけました。』

 

コーチの男性は怪訝そうな顔で
私のことを見ている。

 

『娘がどうしても知りたい
って言うので・・・』

 

私は娘のせいにした。

 

私の指さす方角に
娘がいることを確認した
男性コーチは少し安心したのか
私にこう教えてくれた。

 

『あれは、もういっちょ~
って言ってます。』

 

『ああ、なるほど
ありがとうございました。』

 

私は娘に駆け寄る。

 

『お父さん、なんて?』

 

『ああ、あれはね。
もういっちょ~なんだって』

 

娘はきゃははと笑い
そうか~もういっちょか~
と感心していた。

 

『お父さん、あそこの
店員みたいやね?』

 

娘が言うあそこの店員とは
我が家から少し離れたところにある
コンビニエンスストアの店員で、
いつも私が娘と行くと

 

『っせ~』

 

とか

 

『っした~』

 

という店員だ。

いずれも
『いらっしゃいませ』

『ありがとうございました』
の略なのだ。

 

この時も私が店員に
『君はさっきから何て言っているのかい?』
と尋ねることで判明した。

 

略していることが
恥ずかしかったのか
店員はその後、
少なくとも我々親子が
行ったときは

『いらっしゃいませ~』

 

と出迎えてくれ、帰りには

 

『ありがとうございま~す』

 

と言うようになった。

 

娘はそんな店員の姿を見て

『別に前のまんまで
良かったのにね。』

と言う。

 

違うんだ、娘よ。

 

我々は疑問を明らかにしようと
質問をしに行ってるが、
相手側はきっと
自分の不十分な部分を
指摘されたと思ってるんだ。

 

翌日、息子の試合の二日目も
娘と応援しに行った。

 

サッカーコートの向こう側からは
今日も女子テニス部の声が
響いてきていた。

 

『もういっちょ~』

 

昨日よりもはっきりと
発声していた。

 

シテキシタワケジャナイノヨ

 

合掌

 

 

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