751発目 その人との関係とその特徴の話。


ライナーノーツ

『知り合い』という言葉を
辞書で調べてみた。
というのも、ある書類に
記入する必要があり、
果たしてそれが知り合いと表現しても
良いのかどうか、
判断に迷ったからだ。

 

辞書にはこう書いてあった。

 

「互いに顔と名前を
知っており、付き合いのある
関係」

 

なるほど
そういう意味か、と
改めて納得するが
そこでまた
悩んでしまった。

 

毎年、この時期
つまり1月から3月にかけて
色々な人から
新居を探す依頼を受ける。

 

なぜなら私が勤める会社が
お部屋探しをすることを
業務としている部署があるからだ。

だが私自身は部屋探しを
してあげることは出来ない。

部署が違うからだ。

 

そのため、誰かの部屋を
探すときはその専門部署に
話を通して、なるべく
希望に沿える物件を
提供してもらったり
何らかのサービスを
提供したりと、つまり
ざっくり言うと

便宜を図る

 

のだ。

 

だから依頼者は口コミで
ヤマシタに頼めば
便宜を図ってもらえると
思っている、と
私はにらんでいる。

 

もちろん、そこは会社の
ルールの範囲内の便宜なのだが
その便宜を図るにも
一定の手続きが必要になる。

 

その手続きの一環として
書類を提出するのだ。

 

どこどこの誰々さんが
お部屋探ししてますよ、
何月何日ごろ入居したい
らしいですよ、
予算はいくらくらいですよ、
駐車場は不要だそうですよ、
などを記入し、最後に
紹介したい相手の名前と
私との関係を記入する。

 

そこでいつも困るのだ。

 

今年も例年通り
数人の知り合いから
部屋探しを頼まれた。

 

その入居者は
高校の頃の同級生の娘、とか
取引先の社長の息子、とか
隣人のいとこ、とか
高校の頃の同級生の会社の
新入社員とか。

 

つまり、知り合いの知り合いだ。

 

勝手な自分の解釈で
知り合いの知り合いは
もう知り合いでいいよな?
って思ってる。

確かモーターボート協会の
笹川会長も
『人類みな兄弟』
って言ってたし。

 

ただ、今回に関しては
知り合いと呼ぶのは
おこがましいのではないか?
こんな人に便宜を図る必要は
ないのではないか?と
思えたんだ。

 

中学生になる息子が
通っていた幼稚園で
仲の良かった4人の
友達は一人を除き
みんなバラバラの
小学校や中学校に
通っている。

だが、お母さん同士が
ちょこちょこ連絡を
取っているので
お互いの近況は
分かっている状況だ。

最近の言い方をすれば
ママ友というのか?

そのうちの一人から
私の妻あてにメッセージが
届いた。

 

『部屋探しを頼みたい』

 

誰の?
と聞く前に快諾したのは
そのママ友が美人だから
ってのは内緒だ。

 

で、あらためて
誰の部屋探しか聞いてもらう。

 

『旦那の元上司で、今は
会社を辞めて広島に
おるんやけど、その方の
娘さんが今度就職で
福岡に住むんだって。
で、その部屋探し。』

 

なるほど。
え?
誰?
もう一回言って。

一度で理解できないくらい
遠い存在だな。

いったん整理しよう。

ママ友って言うのは
私の妻の友達だから、
それは私の知り合いでもある。

顔も名前も知っている。

そしてそのママ友の
ご主人は8年前に一度
お会いしたことはあるが
フルネームは知らない。

つまりママ友のご主人は

『知り合いではない』

と分類される。

そこまで厳密に分けなくても
いいか、とまたしても
勝手な解釈をする。
配偶者なんて一心同体だもんな。
よし。
ご主人も知り合い、っと。

で?
その知り合いであるご主人の
勤め先の元上司?

 

知らん知らん

名前も顔も知らんわ!

 

ぴろ~ん

 

『名前はハギサキさんって
言うんです。』

 

追加のメッセージが届いた。

 

そうか。
ハギサキさんか。
名前知ってしまったら
それはもう知り合いだな。
顔は知らんけど。

 

で?

その娘?

知らん知らん知らん!

 

いや、待てよ。

今年就職で?
つまり独身の可能性が高い?
ってことは同じハギサキさんか?

だったらぎりぎり
知り合いか?

 

翌日、私は出社し
所定の書式に記入する。

【紹介者とあなたの関係】

の欄に(そこは比較的
狭いスペースなのだが)
私は出来る限り小さな字で

『知り合いの知り合いの知り合い』

 

と書いた。

 

書式を本社にメールして
受理されたら担当店舗に
その情報が届き、担当者から
おそらく問い合わせの
電話があるだろう。

 

私は先手を打って
担当店舗の店長に
電話をかけた。

 

『あのね、俺の知り合いの知り合いの
知り合いが部屋探ししとるんよ。』

 

『ヤマシタさん、それは
あれですね?他人ですね?』

 

いきなりばれた!

 

『いや知り合いや。だけん
便宜を図ってやってくれ』

 

店長は元直属の部下だったので
快諾してくれた。

 

しばらくして
おそらく書類が回ってきたのだろう、
店長から電話がかかってきた。

 

『あのう、今度の連休に
福岡にお越しいただくことに
なったんですけど、なんていうか
特徴とかそういうの分かりませんか?』

 

私が他人の特徴を
知ってるわけがない。

店長はそれを
分かったうえで
尋ねてきた。

つまりこれは
ボケろよ、という
意味だな。

ここでも私は
自分のなりの解釈で
納得しようとした。

 

『家に帰ったら妻に
聞いてもらうよ。』

 

もうすでに知り合いだと
言い張ることすら忘れてる。

 

帰宅後、妻にお願いし
ママ友に聞いてもらったが
彼女も彼女の旦那も
特徴は分からないそうだ。

他人やん!

知り合いでもなんでもないやん!

 

困った私に
息子が手を差し伸べた。

 

『ケイ君ってさ、そういえば
ノールックパスのことを
ノンルックパスって言うんよね。』

 

ケイ君とはママ友の息子だ。

仕方ない
そのボケをいただこう。

 

私は翌日、店長に
電話をした。

 

『あのさ、特徴だけど・・』

 

『あ、もう連絡着きましたから
大丈夫です。』

 

『いや、一応聞いてよ』

 

『え?』

 

『ノールックパスを
ノンルックパスって
言うらしいよ。』

 

店長は落ち着いた声で
私に、元直属の上司である
この私に向かって
20歳以上も年上の
せっかくボケた先輩である
私に向かって

 

『ははは、じゃ、お疲れっす』

 

と乾いたリアクションを
寄こしてきた。

 

この話で私が何を
伝えたいかというと、
ノールックパスって言葉は
大人になると使わないよね?
ノンルックパスって
もっと使わないよね?
ってことだ。

 

シリアイノシリアイハタニン

 

合掌

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