750発目 充電コードの話。


充電が切れると
どうなる?

今の生活で
充電が切れても
困らないものって
何かある?

ないよな?

大概の持ち物が
充電式になったよな?

キャンプで使う
ランタンも
充電式だよ。

煙草ですら
充電式のヤツを
使ってる人が多い。

スマホだってそうだろ?

だからみんな
予備のバッテリーを
持ち歩いてるんだ。
コードとセットで
持ち歩くんだ。

充電コードしかないと
充電が終わるまで
その場を離れられないからな。

コードとバッテリーは
必ず一組で持つべきだ。

でもさ
便利な道具が
一つ増えるたびに
俺たちの荷物が増えるって
皮肉な話だよな?

これはその
手ぶらで外に出てるときに
充電が切れた
ある男の悲しい話だ。

その時その男の行動は
そこにいた人たちを
驚かせるには
十分すぎる行動だった。

 

俺だってそうさ。
久々に驚愕したよ。

今にも雪が降りだしそうな
重い雲に覆われた空を
見上げながら
俺はコンビニの入り口を
くぐった。

朝から目一杯の
スケジュールで
客先を走り回った
俺はようやく
休憩にありつけた。

大好きなコーヒーは
ここのコンビニの奴が
お気に入りだ。

何しろ100円だからな。

入り口をくぐると
店員に来客を知らせる
音が鳴る。

店員はそれまでの作業の
手を止め
レジがあるカウンターへと
戻るそぶりを見せた。

店員がいなくなったその先、
店の奥、ホットドリンクの
コーナー近くに
電動車椅子に乗った
オイサンがいた。

オイサンは車椅子の上から
商品を取ろうとするが
どうやら届かないらしい。

見かねた店員が
手助けに行こうとするが
ちょうどそのタイミングで
会計に来た客がいた。

もう一人の客は
小さな子連れで
手がいっぱい。

こっちのOLは
気が付いてない。

仕方ない。

 

他人に親切をするのは
俺の得意分野だしな。
俺が行くしかないか。
一日一偽善だもんな。

 

俺は話しかける。

『オイサン、届かんちゃろ?
取ってやるばい』

オイサンは嬉しそうに

『おお、そうね
兄ちゃん。悪かねぇ、
ほんならそこの
サンドウィッチば
取っちゃらんね?』

 

俺はオイサンの指定した
商品を取り、膝の上に乗せた。

さらにそこでもう一つ、
持ち前の気を利かせた行動に
出ることにした。

『飲み物はいらんとね?
ついでやけん、取るバイ。』

『あら!
ほんなら甘えようかね。
そこの牛乳にしようかいな』

俺は近くにあった
買い物かごに牛乳を入れ
先ほど棚から取り出した
サンドウィッチっと一緒に
オイサンの膝の上に乗せた。

 

『他にもなんか
買い物があるんやったら
ついでやけん
取っちゃあよ』

 

気を利かせる俺に
オイサンは首を振り
これで十分ばい
と言った。

 

『ありがとね
兄ちゃん。助かった』

 

オイサンがそういったとき
電動車椅子から電子音が
鳴り響いた。

ピ~~~~~~~~~!

 

オイサンは肘掛のところの
レバーやらスイッチなどを
いじっている。

あれ?あれ?

と戸惑ってもいる。

 

俺はもう一度近づき
オイサンに尋ねた。

『どしたん?』

店員も心配そうに
近づいてきた。

 

『ダメばい!
充電が切れたごたぁ。
動かんくなった。』

 

え~?

どうするん?

動かんかったら
こっからどうやって
帰るん?

いくら親切の塊の
俺とは言え
電池の切れた車椅子を
押してやってまで
オイサンを助ける気は
しない。

何しろ仕事中だからな。

ところが
オイサンは無言で
こっちを見ている。

 

いやいやいや!
それはあんた、
図々しいっちゅうもんやろ?
親切をそっち側から
求めたらいかんよ。

 

『いや、オイサン
ごめんね、俺もう
仕事に戻らんと
いかんけん。』

 

そう言い訳しようとした
その瞬間だった。

 

信じられないような
光景を目の当たりにした。

 

夢を見ているかのような
気分だった。

 

隣の店員をみると
あんぐりと口を開けて
驚いている。

 

会計を待っていたOLも
小さい子の手を引いた
若いお母さんも、みな
一様に驚いている。

 

俺もきっとみんなと
同じ顔をしていただろう。

ざわついた店内が
一瞬だけ静かになった。
まるで時が止まったように。

 

オイサンは
車椅子から立ち上がると

『ちょっと家まで
予備のバッテリーば
取りに行ってくるけん。
それまでここに
置かしとってな。』

 

そう言って
スタスタと
店の外に出て行ったのだ。

 

店内にはぽつんと
電動車椅子だけが
残されていた。

 

え~?

歩けると~?

てゆうか

立てると~?

 

うわ!
走りよるや~ん!

走れると~?

俺は特殊詐欺の
被害にあったかのような
後味の悪い気分になった。

何だったんだろう?
俺の親切はいったい
誰のための物だったんだろう?

 

すごく
スッキリしない気持ちのまま
コンビニの駐車場を
後にした。

ふと前方を見ると
コンビニへ戻ろうとする
先ほどのオイサンが
見えた。

 

手には充電コードを
持っていた。

 

今から充電するんかい!

 

メイワクナオイサン

 

合掌

 

 

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