今、日本中を熱狂の渦に
巻き込んでいる作品がある。
それが『鬼滅の刃』だ。
公開からわずか4日間で
邦画史上最高の興行収入を記録した。
何がそんなに人々を熱くさせるのか?
その秘密はこの作品の
ち密なストーリー構成と
キャラクターの設定にある。
この後はネタバレになるので
まだ観てない人は読むのを
控えた方が良いだろう。
物語は日本のとある農村から
始まる。
主人公の炭次郎は長男であるにも
かかわらず名前に次郎とつけられた。
しかし彼は親を怨むことなく
すくすくと育った。
父親は炭次郎が小さなころに
亡くなった。
病弱な母親と兄弟姉妹を
支えるために長男の
炭次郎が頑張るというストーリーだ。
炭次郎のすぐ下の妹は
彼にとってかけがえのない
存在で、命に代えても
守りたいと思っている。
父親のいない彼の家庭は
決して裕福ではないため
中学を卒業するころには
高校進学ではなく
就職を選んでいた。
亡くなった父親が
残してくれたわずかばかりの
田畑は家族が食べていくだけしか
生産性がないので
彼は思い切って街へ
出稼ぎに行くことにした。
妹は彼が家を出ることを
反対した。
『お兄ちゃんがいないと
私、私・・・・』
『我慢をするんだ。お兄ちゃんは
必ず月に一回は帰ってくるよ』
そして嫌がる妹に
自作のプレゼントをした。
小さなころから吹奏楽に
興味があった妹のために
竹で作ったフルートを
プレゼントしたのだ。
『嬉しい!私はこれを
食事の時以外ずっと
身に着けてるわ!
お兄ちゃんありがとう』
彼自身も本当は家を出るのは
嫌だった。
大好きな母親や兄弟姉妹と
離れて暮らすことを考えたら
不安で胸が詰まりそうだった。
だが、父親のいない家庭で
唯一の稼ぎ頭は自分しか
いない、僕が家族を守るんだ
と密かに誓うのであった。
街に出てきた炭次郎は
まずハローワークに向かった。
2階のカウンターで
受付の担当者に
二つの条件を告げた。
『住み込みで楽な仕事』
担当者は炭次郎を一瞥すると
すっと一枚の用紙を渡してきた。
『ここ記入して。』
ぶっきらぼうに言う担当者に
戸惑いながらも
炭次郎は必要事項を
記入していった。
担当者は年齢の欄を見て
こう言った。
『未成年だと上がしゃーしいけん
あんまり紹介出来んばってん
ヨカや?』
炭次郎は背に腹は代えられない
と覚悟し答えた。
『何でんヨカです。
住む所とまかないがあれば
少々のことは我慢しますけん
お願いします。』
『ほう。若いのに大した
覚悟やね。おいちゃんは
そげな若い衆ば好いとったい。
ほんならこれなんか
どげんや?』
そう言って笑顔になった
担当者が出してきた紙には
こう書いてあった。
『鬼退治。急募
経験不問。
退治用の道具はすべて支給。
寮完備、素敵な仲間と
鬼退治しませんか?』
月給15万で賄いつき、
炭次郎にとってこんなに
好条件の仕事はなかった。
彼は即答した。
『ここにします。
すぐにでも働きたいです。』
『ほんなら、今から
社長に電話するけん
ちょっとそこで待っとき』
担当者はすぐに電話した。
『お電話ありがとうございます。
鬼退治のゴブリンバスターです!』
『ああ、職安ですばってん
社長はおんしゃあですか?』
『あ、いつもお世話になります。
少々お待ちください。』
『あ、もしもし?社長?
お世話になります。職安の
サトウです。』
『ああ、こりゃどうも
誰かヨカ人材がおったとですか?』
『ちょうど今、職探しに来た
少年に社長んとこば紹介したら
ぜひやりたいっちゅうてから
今からそっちにやりたいとばってん
よかろうか?』
『ああ、ほんなごつ、それは
楽しみやねぇ。
ほんなら待っときますけん
すぐこっちに来ちゃらんですか?』
『はいは~い、ほんなら
今からバタバタ行かせますけん』
『はいよ~お願いしときます』
こうして炭次郎は鬼退治の
会社に就職が決まった。
社長も同僚もとても
良い人たちばかりで
炭次郎はほっとした。
彼の最初の任務は
道具磨きから始まった。
彼の教育担当は
彼より入社が3年早い
先輩だった。
『3か月間我慢して
道具磨きしよったら
すぐに退治デビューできるけん、
がんばりいね。』
彼は3か月間サボることなく
道具を磨き続けた。
そして4か月目を迎えたころ
社長室に呼ばれた。
『炭次郎、お前もそろそろ
現場に出てみらんや?』
『はい。がんばります。』
『ほんならここから
依頼が来とうけん、行ってみ』
炭次郎が依頼表を見ると
そこは彼の生まれ故郷の
農村だった。
『あら、社長、ここは
僕の出身地ですばい。
行ったついでに実家に
帰ってきてもヨカでしょうか?』
『おお、そうね、そんなら
久々に母ちゃんのおっぱいでも
吸うて来ちゃれ、がっはっは』
炭次郎は妹に会えるのを
楽しみに先輩と鬼退治に
向かった。
現場は騒然としていた。
農民たちが遠巻きに暴れる鬼を
眺めていた。
鬼はべろべろに酔っぱらっている。
『おらあ、何見ようとや!
見せ物じゃないとば~い。
なめとったらブチくらすぞ!』
先輩は暴れる鬼を
ちらっとみると
冷静に道具を準備した。
『あらあ、ただのチンピラやね。
心配いらん、5分で終わらすばい』
『僕は何をしたらヨカですか?』
『俺が近づいて話しかけるけん
後ろからこそっと近づいて
この棒で思いっきり
後頭部ばブチくらしてん。』
『はい分かりました。』
緊張する炭次郎をしり目に
先輩は鬼に近づいた。
『はいは~い、社長、
どしたんね?
えらい酔うとうごたあねえ。』
『なんやキサン?お前に
関係なかろうが!』
『関係はないばってん
ほかの皆さんが怖がっとうやん。
ちいと静かに飲まな
つまらんばい』
『なんや?
なん偉そうに言いよっとか?
お前からクラしちゃろうか?』
『そげん怖いこと言わんで
・・・・』
ボコ!
炭次郎の渾身の一撃に
鬼は沈むように地面に倒れた。
『よっしゃあ、ばっちりや!
炭次郎ようやった!
完璧ぜ!
ほんならさっさと
縛り上げるぜ』
先輩はそう言うと
持参したロープで鬼を
縛り上げた。
周囲からは拍手が起こった。
『さすがばい!』
湧き上がる歓声の中
どこからともなく
美しいフルートの音色が
聞こえてくる。
『ん?なんやこの
メロディ?』
炭次郎は気づいた。
『先輩!これは
僕の妹のフルートです!
僕が作った竹のフルートです!』
4か月ぶりに会う妹は
涙を流しながら
兄に抱き着いた。
『お兄ちゃんのばか!
寂しかったんよ!
全然帰って来んでから!』
『ごめんごめん、
痛い痛い、口にくわえた
竹が当たりようって!』
久々の家族との再会に
炭次郎も泣きそうになった。
こうして炭次郎は立派な
鬼退治として成長していくのだった。
いやあ、映画って本当に
イイモンデスネ
合掌