720発目 財布から出て行かない小銭の話。


ライナーノーツ

ふらりと立ち寄った

コンビニエンスストアで

適当に手に取った商品を

レジに持って行き

会計をしたら

ちょうど400円だった。

 

思えば消費税が導入されて

25年以上が経過したが

いまだに釣銭の

1円玉や5円玉にストレスを

感じていた俺にとって

この『ちょうど400円』って

いうのが、ささやかだが

幸せを感じる出来事になっていた。

 

 

レジの向こう側の店員も

『お!』みたいな顔をした。

 

ああ、君も分かるかね?

このストレスだらけの

世の中に、ポトリと

産み落とされたこの僥倖を。

 

さあ、ともに喜びを

分かち合おうではないか!

 

心の中でそう叫び、

両手を広げようとした。

 

だが、そこで

俺のこの幸せな気分に

水を差すようなセリフを

この店員が吐いた。

 

どうした?

 

さっきまでは

同士だと思っていたのに。

 

 

さて、詳細に移る前に

ここでひとつおさらいを

しておこう。

 

例えばお前が

俺と同じ1円玉や5円玉に

ストレスを感じるタイプの

人間だったとしよう。

 

便宜上ここでは

『アンチ釣銭』と呼ぶ。

 

アンチ釣銭が買い物時に

行うルーティンとしては

出来る限りの釣銭を

受け取らないようにする作業だ。

 

例えば会計が568円だったとする。

 

1,000円札を一枚出し、そして

小銭入れからストレスの元に

なっている1円玉と5円玉を

叩き出す。

出来れば60円も出しておきたい。

無ければ10円でも良い。

 

店員はきっと

 

『1,008円からでよろしいですか~』

 

と聞いてくるだろう。

 

何故そんなことを

聞いてくるかって?

 

店員としてはアンチ釣銭に

チャンスを与えてるのだよ。

 

おい、60円出さなくていいんか?

 

おい、10円出しとけよ。

 

ってね。

 

運よく10円玉があれば

それに越したことはない。

 

1,018円出したことで

お前の釣銭は450円になる。

 

あの忌々しい1円玉と

5円玉を同時に4枚処分できた

上に、残りのすべてを

銀貨に変えられたことは

お前にとってストレスレベルを

かなり減らしたことになる。

 

 

話を戻そう。

 

ヤマシタよ。

会計が400円だったのなら

何も問題はないではないか?

 

だと?

 

大ありだ!

 

俺は1,000円札を出したんだ。

小銭は忌々しい奴らを少々

持っていたが、ここでは

出番がなかった。

だって『ちょうど400円』だからな。

 

そしたら、さっきまで

同士だと思っていた

店員が俺に向かって

こう言ったんだ。

 

『1,000円からでよろしいですか?』

 

ってね。

 

 

おい、店員よ!

 

お前もさっき見ただろ?

お会計はちょうど400円だ。

 

この場合のアンチ釣銭が

やる行為と言えば

ちょうど400円出すか、

500円玉を出すか、

もしくは1,000円札を出すかだろ?

 

そして俺は1,000円札を出した。

 

もう。。。

 

充分だろ。。。。

 

俺にはこれ以上の細工は

出来やしねえ。

 

思いつかねぇえよ!

 

 

なのに何故、あなたは

私に問うのですか?

1,000円からでよろしいですか

って?

 

なのに~

何~故~

歯を食~いし~ば~り~

 

 

は!

 

 

なんと!

 

レジのところに

何か書いてる!

 

キャッシュレスの方

最大で5%還元?

 

 

何~?

 

 

俺は店員に聞いてみる。

 

『兄ちゃん、これなんね?』

 

『ああ、これっすか?

ぺいぺいとかナナコカードとか

持ってませんか?』

 

『ぺいぺい?なんやそれ?

アダモちゃんか?』

 

『いえ、違います。

例えば、交通系のICカードとか?

持ってませんか?』

 

『ああ、これか?』

 

俺はそう言って

定期を出した。

 

『ああ、じゃあこっちで

払った方が還元されますから。

JR九州のこれだと、え~っと

2%還元っすね』

 

 

え?

 

 

ってことは

 

ちょうど400円が

392円になるの?

 

 

『ああ、だったら

今財布にあるこの

忌々しい1円玉を

処分していいかいな?』

 

 

『ああ、いえいえ

キャッシュレスの場合だけ

値段が変わるんですよ。

何すか?忌々しいって(笑)』

 

『いや、忌々しいやん、これ?』

 

と、同士である店員によると

キャッシュレスでの決済を

することで、若干の還元や

割引を受けることが出来るらしいのだ。

 

 

何ということでしょう。

 

あの忌々しい釣銭たちを

退ける方法としてもっとも有効なのは

キャッシュレス決済だったのです。

 

 

こうして、アタクシの財布の

小銭入れには、いつまでたっても

処分されないし、出番のない

1円玉と5円玉が住み着いてしまったのでした。

 

メデタシメデタシ

 

合掌

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*