718発目 市役所近くのカフェの店員に嫌われた話。


福岡の出来事

実際は一度も体験したことが

ないはずなのに

既に体験しているように

感じてしまう現象のことを

一般的には

『デジャヴ』

と呼ぶ。

 

デジャユ、とかデジャブとか

語尾の発音の細かいトコは

どうでも良い。

 

私はデジャヴと呼んでいる。

最後のところは下唇を

噛みながら『ヴ』だ。

 

既視感とも言うだろう。

 

 

私には幼馴染がいる。

女性だ。

 

彼女は外見だけで言うと

いわゆる美人の部類に

入るだろう。

 

身長もすらっと高く

長い髪はお洒落な色に

染め上げてるし、

来ている洋服のセンスも良い。

 

一緒にいると夫婦か

恋人に間違われたことは

過去に何度もある。

 

彼女の友人なんかも

必ずと言っていいほど

私と彼女の間には

過去に男女の関係だったと

疑う人も多い。

 

だが、私と彼女の間に

そういった関係になりそうな

感情が芽生えたことは一度も

ない。

 

まったくないのだ。

 

つまり、その。。。

 

好みじゃないんだよね。

 

人間的にはとても大好きで

尊敬もしているよ。

 

けど。。。。

 

タイプじゃないんだよね。

 

 

彼女の方に聞いてみたことがある。

 

『俺の事どう思う?』って。

 

そしたら彼女も私と同様に

 

『いい男だとは思うよ。

けどさ、まるっきり

タイプじゃないんよね。』

 

とのこと。

 

幸か不幸か、我々は

もう40年以上の月日を

ただの友人として過ごしている。

 

何故、幸か不幸かって?

 

私の奥さんは彼女の紹介で

知り合った、彼女の友人の

一人なのだ。

 

かつて、私の妻も

私と彼女の間柄を

疑っていた。

 

時には裏でこそこそと、

時には堂々と

嗅ぎまわっていた。

 

だが、やましいことが

何もないのであきらめたようだ。

 

今では、夫婦共通の友人として

接することに何の疑問もないようだ。

 

妻にも聞かれたことがある。

 

『彼女のことを好きになったことが

一度くらいあるんじゃないの?』

 

って。

 

私が、なぜそんなことを聞くのか?

と問うと。

 

『だって、彼女って

美人じゃない。』

 

そう答える彼女を

驚いた表情で私は見る。

 

『君の方が数倍も美人だし

何より、君の方が私のことを

愛してくれている』

 

そんな妻は、お洒落な

カフェをめぐるのを

趣味の一つにしている。

 

結婚して17年の間に

百件以上のカフェを巡った。

 

気に入った店は

何度も行くが、

イマイチだった店は

二度と行かないという

徹底ぶりだ。

 

私は、といえば、

ただ、ついて行っている

だけなので

店によっては

同じような店だなぁと

特別な感情が湧かないことも

多々ある。

 

一方、幼馴染の彼女も

お洒落なカフェをたくさん

知っていて、隠れ家的な

店に連れて行ってくれる。

 

『今度、奥さんと来てみたら?』

 

と言われるが、来たことはない。

 

 

お昼前に幼馴染の彼女から

電話があり、博多駅の方に行くから

ランチでもどうか?と誘われた。

 

断る理由はない。

 

駅の裏で彼女と待ち合わせ

私は車で拾う。

 

助手席に座った彼女に聞く。

 

『どこ行く?』

 

『えっとね、時間ある?

あるんなら一回行ってみたい

カフェがあるんよねぇ。

市役所の近くなんやけど。』

 

私は車を市役所方面へ

走らせる。

 

お店の裏には専用の駐車場が

用意されていた。

 

私が車を停めているあいだ

彼女は先に店内に入ったようだ。

 

店のドアを開けると

既に座っている彼女が見える。

 

と、その瞬間!

 

なんだこれ?

 

見たことあるぞ!

 

この光景、デジャヴだ!

 

店の床、ドアから見える

店内の感じ、そして

テーブルに座ったまま

手招きする彼女。

 

すべてが前に一度

体験したかのような

光景だ。

 

まさに

 

デジャヴだ!

 

『ヴ』は下唇を噛んで『ヴ』だ。

 

 

私は彼女の対面に座り

そっと聞いてみた。

 

『ここさ、前にも

来たことあるっけ?』

 

『いいや。初めてじゃない?

私は女友達としか来たことないよ』

 

『なんやろ?来たことあるみたいなさ。

デジャヴっていうんかね?

そんな感じなんよ』

 

『カフェなんてどこも

似たり寄ったりやろ?

どっかと間違っとんやないん?』

 

そうか。

でもなんだか気味が悪いな。

 

お尻のあたりがムズムズするのは

トイレの後、きちんと拭かなかったせいじゃない。

 

きっとデジャヴのせいだ。

 

食事を済ませ、レジに向かった。

 

彼女は先に店の外に出ている。

昔から支払いは私がして

外で割り勘にするのが

彼女との間のルールだ。

 

レジの女の子にダメもとで

聞いてみた。

 

『つかぬことを伺うが、

私は前にもこの店に

来たことがあるだろうか?』

 

店員がいちいち客の顔を

覚えているとは思えぬが

一応、念のためだ。

 

レジの女の子はおつりと

レシートを渡しながら

こう言った。

 

『以前は別の素敵な女性と

来られてました。

おモテになるんですね。』

 

そうか!

 

妻と来たのか!

 

私の晴れ晴れとした表情とは

裏腹にレジの女の子の視線は

鋭かった。

 

『レシートをどうぞ!』

 

むりやり渡されたレシートには

『浮気もん』と落書きがされていた。

 

表に出て彼女に一部始終を

説明すると、涙を流しながら

大笑いし、

 

『奥さんとまた来た時に

ややこしいだろうから

誤解を解いてくる』

 

とまた店内に戻って行った。

 

車で待っていると

彼女がやってきて

誤解は解いたからもう大丈夫、

と説明を受けた。

 

 

『デジャブじゃなかったね。』

 

違う!

 

下唇を噛んで『ヴ』だ!

 

 

ゴビニコダワル

 

合掌

 

 

 

 

 

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