私のヒアリング能力が低いのか?
それとも彼の滑舌が悪いのか?
土曜日の昼下がりだった。
自宅の庭で作業をしていると
玄関の方から声がする。
家の脇を抜けて
表に出たら、
インタホンのところに
若い男が立っていた。
「何か御用?」
そう尋ねる私に
彼は満面の笑みで
一歩踏み出して
「あ、ご婦人さまえすか?」
と言った。
よく見ると前歯が1本ない。
「ご婦人というよりは
自分で言うのもなんだが
ご主人の方だと思っている」
そう否定した私に
尚も演劇部のような笑顔で
「ご主人さまですよね?」
と繰り返した。
3度目でようやく「ご主人」
と聞き取れた。
「実はこの辺りで
ミノーグのタンホウに
かりまして。」
中々の難問だぞ。
ミノーグ?
カイリーミノーグか?
タンホウって何だ?
かりまして?
何か貸したっけ?
「え?何て?
もう一回言ってくれる?」
「あ、あの、
リフォームの担当に
なりまして・・」
ああ、なるほどね。
リフォームの担当になったの?
「で?なんで見ず知らずの
あんたの人事異動のことを
俺が聞かされるわけ?」
そう尋ねたら、彼は
笑顔に笑顔を重ねたように
にっこりと笑い
「いえいえ、
ご主人様。
この地区の担当になったので
ご挨拶に来たんですよ~」
と、のたまった。
知ってるよ。
そんな飛び込み営業の
常套句くらい。
こっちは忙しいから
追い払おうと思ってるの。
気づけよ、青年。
「今ならパンプキンが
貰えますから、ぜひ。」
お。
どういうことだ?
パンプキン?
何故、カボチャと言わずに
パンプキンと言ったんだ?
あれか?
最近の若い奴らは
やたら英単語を言いたがるから
こいつもそれか?
その一種か?
あれだろ?
どうせ、管理することを
マネジメントって言ってみたり
お品書きのことをフードメニューとか
言ったりするんだろ?
ああ、メニューは年寄りも
メニューって言うね。
「パンプキン、今貰える?」
そう聞くと、また彼は
演劇部スマイルで
「いやあ、さすがに
今すぐは、無理っす。
書類を役所に提出して
2週間後には振り込まれます。」
「振り込まれる?
パンプキンが?」
「パンプキンってなんスカ?」
「いや、こっちが聞きたいよ。」
結局彼が言いたかったのは
還付金の事だった。
営業マンにとって
滑舌が悪いって
チメイテキ
合掌