流行って誰が作ってるんだ?
ふと、そんな疑問が頭を
よぎった。
キャンプの帰り、日帰り温泉の
散髪屋でのことだ。
我が家はキャンプの帰りに
必ず温泉に立ち寄る。
前日の汚れを落としたり
疲れた体を癒すのが
主な目的だが、
そこに散髪屋があると
つい、散髪をしてしまう。
散髪屋特有の椅子に座り
後ろに立ったオサ~ンに
鏡越しで注文する。
ここで、一つ問題が生じる。
私は今までの人生の中で
ただの一度も
満足の行く髪型に
なったことがないのだ。
原因ははっきりしている。
伝えられないからだ。
私は自他ともに認める
社交的な性格だ。
明るいし、おしゃべりが
大好きだし。
何より、見知らぬ人に
話しかけることに
大したストレスを
感じることがないのだ。
なのに。
な・の・に!
鏡越しのオサ~ンに対してのみ
引っ込み思案になるのだ。
小さな声で
「じゃ、全体的に短く」
ってつぶやいてしまう。
「え?じゃあ横と後ろは刈りあげちゃう?」
本当は刈りあげなんて嫌なのに
言い返すこともできずに
「あ、じゃあそれで」
と、合意してしまう。
ああ、はっきりと
言うべきだった。
刈りあげは嫌だ!
と言うべきだった。
オサーンは私の頭に
シュシュシュと
スプレーで水をかけ、
コームを使って七三分けみたいに
していく。
そして、おもむろに取り出した
青いバリカンで
ぞり~ん
一気に分け目まで
刈りあげてしまった。
まてまてまて!
おいおいおい!
震災刈りやん!
嫌や~。恥ずかしい~。
私は思い切ってオサーンに
話しかける。
「あ、あのう」
「はい?」
「こんなに刈りあげるんですか?」
「え?だってお兄さん
短くって言うから」
『ここまで短い話は
してないやろがい!』
(心の声)
「あ、でもてっぺんが
結構残ってるというか・」
「ああ、大丈夫よ
これから揃えていくから」
そういうとオサーンは
反対側も青いバリカンで
ぞり~んとイってくれた。
最終的にはてっぺんも
バリカンでゴリゴリやりだし
出来上がった頭は
「先っぽの軽くとがった坊主」
になっていた。
『こんな髪型、流行ってないやん』
(心の声)
「はい、出来ました。」
オサーンは得意げに
もう一つの鏡を使って
私の後頭部を前の鏡に
映し出した。
鏡の中の私の横に
オサーンが映っている。
私の髪型はオサーンと
まったく同じ髪型だった。
結論;
このオサーンは自分と同じ髪型の
男を量産して流行を作ろうと
している。
トンガリボウズ
合掌