686発目 ゼロから諺を作り出す話。


さすがに師走というだけあって、自分はもちろんのこと周囲も心なしか慌ただしい。外に出るとやはり駅へ向かう人や駅から出てくる人のそれぞれが慌ただしい。

 

横浜駅の前の高島屋の前の道路を冷たい風が吹き抜ける。そういえば慌ただしいだけでなく、マスクをしている人が多い。

 

そういえば、朝礼でも部長がインフルエンザの予防接種を受ける人を募集していたな。飯場にやってくる手配師がその日の日雇い人夫を募集するときと似ていたな。

 

「おい、ヤマシタはどうする?」

 

私は間髪入れずに断りを入れる。

 

こんなに世間ではマスクをしている人が多いのに?

 

街中のいたるところで風邪ひきさんが出没してるのに?

 

何を言われても答えはNOだ。

 

何故なら私は「風邪をひかない男」だからだ。

 

私が最後に風邪をひいたのは、一体、いつだったかすら思い出せない。

 

平成21年の冬に家族全員が咳と鼻水、高熱に冒された。いわゆる風邪ですね、と診断された。念のためインフルエンザの検査をしてもらったら妻も息子も娘も陽性反応だった。妻は私が年末のこの時期に会社を休むわけにはいかないからと、寝室を別にした。つまり私を隔離したのだ。にも拘わらず鼻水がとまらなくなり、頭がぼおっとしてきた。ああ、これはもう風邪だな、と思い病院に行くことにした。医者は首を傾げ「多分風邪だと思いますが・・」と曖昧な科白を吐いた。

 

私はもしやと思い耳鼻科を受診した。するとやはり診断結果は「鼻炎です。」だった。風邪ではなかった。

 

あれだけ家族が総動員して私に風邪ウイルスを使って攻撃してきたのに私の体はそれを拒否したのだ。

 

その時のことは私の風邪をひかないという自信へとつながった。今では自他ともに認める「風邪をひかない男」として活動している。

 

「ヤマシタさんってマスクしなくて大丈夫なんですか?」

「ああ、俺は大丈夫。風邪をひかない男だから。君は大丈夫?」

「ああ、私はこれ、予防のためのマスクです。」

 

予防・・・・

 

「ヤマシタさんは予防しなくていいんですか?」

 

予防・・・・

 

したい。

 

 

街の中、コワイ。

 

電車の中、コワイ。

 

ET イイコ。 ヨボウ、シタイ。

 

 

「あ、ああ、予防なんてしないよ。だって俺は風邪をひかない男だぜ。」

 

自他ともに認めたため、私が風邪の予防をすると「あれ?やっぱ風邪ひくんじゃん?」と言われてしまう。私はその恐怖におびえる毎日を過ごすことになった。

だが、どうにか風邪をひかずに日々を過ごすことに成功している。今となっては、もはや風邪をひかない男ではなく「風邪をひいてはいけない男」になってる。食後にコーヒーではなく、エスタックイブを飲もうとしている。

 

このような状態を今からはこう呼ぼう。

 

『ヤマシタのマスク』

 

意味ですか?え~っと、「転ばぬ先の杖」です。

 

諺を諺で説明するなんて

 

 

ナンセンスヨ

 

合掌

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