足元に頭上からゴムボールが落ちてきた。 てんてんてん、と少し跳ねた後、向こう側に転がって行った。
何気なく近づいてみる。 青いボールだった。 しゃがんで、その青いボールを拾ってみた。
ボールをもったまま見上げるが、そこにはボールより少し薄い色の空が広がっているだけだった。どこから飛んできたのだろう?と不思議に思う。青いボールを見つめてみるが、そこにその答えが書いている訳でもなく、ましてや答えを教えてくれるはずもない。
まあいいか、とボールを手放した。 と、その瞬間、雨が降るように大量の青いボールが空から降って来た。
そこらじゅうで跳ねるボールに上から降って来た青いボールがぶつかる。てんてんてん、という音が幾重にも重なって鳴り響く。
私は恐怖で動けなくなり、ボールが頭や肩にあたって痛いのをじっと我慢していた。
そこで目が覚めた。 夢だったのかと、安堵の息を漏らす。 隣に寝ていた家人も目を覚ましていた。
「どうしたの?随分うなされていたよ。」
私はそこで夢の内容を家人に伝える。私の話し方が悪かったのか、家人曰く、そんなにうなされるほど怖い内容じゃない、と言う。
「むしろ可愛いやん。」
「いや、相当怖かった。」
私は汗でびっしょりになった寝間着を脱ぎ、階下の脱衣室に入った。
そういえば、今日は日曜日だな、とカレンダーを見て気づく。子供たちと本屋に行く約束をしていたのを思い出す。
朝食を摂り子供たちを連れ、本屋に向かった。
本屋の陳列を見ている時に、気になってある本を探した。 お目当ての本はすぐに見つかった。1冊しか残ってなかった。私はそれを手に取った。
本のタイトルは「夢診断」だった。
どうしても今日の夢の内容が何を示唆しているのか知りたかった。
だが、その本には私の夢のような内容が該当するページはなかった。
だが、いくつか分かったことがある。 夢診断とは一般的には夢占いともいわれてるが、オーストリアの学者が科学的研究を進め、夢と深層心理の関係を見つけたものらしい。
つまり、満たされない願望や欲望が別の形であらわされたのが夢だということらしい。
そうすると私の見た夢がなんらかの願望とか欲望だということか。 青いボールが頭上から降って来る願望?
ますます不可解になった。 この本屋にはこれ1冊しか置いてない。 私は子供たちを促して都筑区の図書館に向かった。
子供たちは本が好きだから喜んでついてきた。 私は図書館のコンピューターを使って「夢診断」や「夢占い」というキーワードで検索をかけた。
該当の書籍は7冊見つかった。だがこの検索結果は横浜市内すべての図書館の在庫を調べた結果だった。7冊のうち都築図書館に置いているのは2冊だった。残りの5冊は中央図書館と山内図書館にある。山内図書館は田園都市線のあざみ野駅の近くだから、ここから車で15分くらいだ。
私はまず都築図書館に置いている2冊を手に取った。どちらも似たような内容で構成されており、私が知りたい「青いボールが空から降って来る」パターンに関しての記述はなかった。
ここで分かったのは、夢診断は占術の要素もあるため、「夢占い」と呼ばれてるとのことだった。 これ以上の情報がないと分かれば都築図書館に用はない。
子供たちを促し、今度はあざみ野にある山内図書館に向かった。
山内図書館には3冊が保管されているが1冊は貸出中だった。残った2冊を手に取り、中を開いた。
ここに書いていることは興味深かった。「青いボール」というキーワードはなかったのだが「ボール」というカテゴリーがあるのだ。
私は迷わずそのページを開いてみる。そこにはいくつか「ボール」に関する記述があり、それぞれの夢の内容に応じて診断結果が書いてあった。
急ぐ気持ちを抑え、私は1ページづつ読み進めていった。
もっとも私の夢に近い記述が、こうだった。
『球技を観戦しているあなた。 あちこちに行き交うボールをみているあなたは、心に矛盾を抱えています。何か迷いがあるのでしょう。』
これではないな。確かに『行き交うボール』を見ていた。でもあれは球技じゃないもんな。
仕方ない。子供たちを呼び、こう言った。
「もう一つの図書館に行こう。」
子供たちは二人そろって抗議の声をあげた。「え~!」
「中央図書館にお父さんが欲しいと思ってる本がありそうなんだ。」
結局、ガリガリ君を買うことで交渉が成立し、私は中区にある中央図書館へ車を走らせた。
中央図書館にあった2冊の書籍は、そのどちらにもやはり青いボールに関する記述がなく、さらに私を落胆させただけだった。子供たちも飽きてきている。この短時間で3件もの図書館をハシゴするなんて夢にも思ってなかっただろう。
がっくり肩を落として図書館を出ようとしたときに、司書の女性と目が合った。 最後の頼みの綱だと思い、私は司書に話しかけた。
「青いボールが空から降って来る夢を見たのですが、それが私のどんな深層心理を表したものか調べたいのです。関連の書籍は何かないでしょうか?」
司書の方は、嫌な顔一つ見せず、パソコン端末に向かいキーボードを叩いた。
「ちょっと、お待ちくださいねぇ、確か・・・」
しばし無言の状態が続き、そしてようやく沈黙を破り司書が発言した。
「ああ、ありました。これですね。図書館で貸し出しをやってるのは、ええっと、ああ、東京都立中央図書館だけですね。」
「あのその図書館はどこにあるんでしょうか?」
「港区です。」
私は時計を見た。3時半を少し回った所だった。図書館は5時までだから、残された時間は1時間半。港区までどんなに急いでも1時間半はかかるだろう。
もう無理か・・・・ 私は書籍のタイトルを聞き、お礼を言って図書館を後にした。 駐車場から車を出し、子供たちとの約束だったガリガリ君を買いにコンビニへ寄った。
子供たちがアイスを選んでいる間、何気なく本や雑誌の陳列棚を見ていたら、ある一つの本に目が留まった。タイトルは「深層心理 ~気づいてないのはあなただけ~」だった。
そっと手に取り中身をパラパラとめくっていたら、一つ気になるページがあった。そこにはこう書いてある。
『チャプター4:夢で見るあなたの深層心理。』
さらにページをめくる。
『たとえば、何かがたくさんある夢や同じものに囲まれる夢を見る場合、それはあなたが何かに対して迷っていることを暗示してます。』
おお、そうか。これちょっと近いなぁ。俺は深層心理で「何かに迷って」いるのか。気になるなぁ、その何かが何なのか?
さらにページをめくる。
『色;青 青を好む人の深層心理は自分の考えをため込む傾向があります。素直に自分の考えを発言した方が良いかもしれません。』
ほうほう。
つまり、私は深層心理で『心に矛盾を抱え何かに迷っているけど、その何かに理不尽な理由で振り回されて、自分の考えが言えなくなっている』ということか・・・・
え~っと。
あたくし、結局、この夢に振り回されてない?
自宅に戻りネットで検索してみた。思えば最初からこうすれば良かったんだ。googleを立ち上げ検索窓に入力する。
「空から大量の青いボールが降って来る」
検索結果には、そらから落ちてきた凄いモノ15連発というサイトが表示されていた。私はそこをクリックする。画面をスクロールすると一つの記述に目が留まった。
「青いゼリー状の球体2」
これが近いのかな?
「海洋無脊椎動物の卵」
そっかぁ!あれはボールじゃなくて卵だったのかぁ。ああ、また調べに行かんといかんやん!
振り回されてるなぁ。
ケッコウアタッテル?
合掌