子供が熱を出して具合が悪そうだったので、休日はどこにも出かけることが出来なかった。
暇をもてあました子供達のためにDVDを借りてきたついでに、寝静まった後に夫婦で観る為のDVDも借りた。どんな映画かは確認せずにジャケットだけを見て良さそうだと思うものを借りた。
21時過ぎ。
子供を寝かしつけた妻がリビングに下りてきて、さあ、映画を観ようとデッキにDVDをセットする。
こうして夫婦で映画を観るのは久しぶりだ。 ケースを見ると「サスペンス」というカテゴリーが記されていた。
「ふうん。面白そう。」
妻はそう言って私の作ったハイボールをぐいっと飲み干した。
あらすじはこうだった。
とある、建築家がでかいビルを建てた。そのうちの1室を友人と5人で共同購入し秘密の隠れ家にしようと提案した。
「ホテル代をカードで支払うと明細書を見た妻に浮気がばれるし、なによりホテル代の節約にもなる。」
一人の男は「オレは浮気はしない」と断ったが、残りの3人は「浮気意外にも使い道はある」と説得し、結局全員が同意し共同所有する生活が始まった。
ルールは簡単だ。部屋を使うときはその日時を他の4人に必ず知らせることと、鍵を他人に貸与しないことの二つだ。
ある日、5人のうちの一人が部屋を訪れるとベッドの上で裸の女性が死んでいた。 全員が罪をお互いに擦り付け合う。犯人はこの中の一人だ。本当のことを言え、とお互いに罵りあう。
「全員が同じ女と浮気しよったんやない?」
妻がポツリと漏らした。
私は、といえば、浮気をしているわけでもないのにドキドキしながら観ていた。
シーンはとあるパーティーの場面に切り替わる。 女性の死体が発見される数週間前の場面だ。 サンディエゴで行われたパーティーに5人のうちの3人が妻を伴い出席していた。広く大きなテーブルでの会話の中である一人の男性の妻が、こう言った。
「結局のところ、男の浮気って病気なのよね。医者には治せない病気よ。だから私は慰謝料さえきちんと支払ってくれるのなら浮気されたって構わないわ。」
「あら、私は絶対許さないわ。もし浮気したら主人の〇〇〇をちょん切ってやるわ。」
私はそうっと妻を見た。 妻も私を見ていた。 心臓の音が跳ね上がる。 妻はテーブルの上のグラスに手を伸ばし、こう言った。
「確かに病気よね。 私ならちょん切った後、慰謝料貰うわ。」
「そしたらオレは治療費を請求するよ。」
笑えないジョークだった。
ストーリーは進んでいった。 警察がやってきて現場検証をする。 5人の男は参考人として署に連れて行かれそれぞれが尋問を受ける。
そこに待ち受けていたのは友人を裏切った一人の男だった。 そして4人の男達はその裏切り者に制裁を加える。 裏切り者の男は逮捕され妻と子供にも逃げられ孤独な人生を迎える。
残った4人も全員が妻から離縁を迫られる。 一人の男だけは妻に必死に弁明し復縁が出来たが、その理由として妻は「私も浮気したからおあいこよ。」だった。
その浮気相手は例の4人を裏切った男だった。
複雑に絡み合ったストーリーだった。
「あ~、面白かったね。 でもあの男、復縁したね。」
「ああ、そうだね。妻のほうも浮気してたからね。チャラだよ。」
「あの言い方って利くよね?」
妻が言うあの言い方ってのは、5人の男のうちの一人(役どころは精神科医だったが)の妻が、夫にこう言うシーンのことだ。
「私はあなたのことなら何でも知っているの。私と一緒にいない間にあなたが何を食べ、何を飲み、そして誰と何をしたかもね。」
夫の精神科医は精神的に追い詰められ白状しそうになる。 だが、妻はそれを制してこう言う。
「今はあなたが告白するときじゃないわ。 それをいえない苦しみを味わうと患者の苦しみがもっと分かるのじゃない?」
夫の精神科医は顔面蒼白になった。
「あの言い方は、そうだね。確かに利くよ。」
私はかろうじてそう答えた。
「さあ、寝ようかしら。」
何かを言いたそうにしながら寝室へ向かう妻の後姿を見ながら私はグラスに残ったハイボールを飲み干した。
自分で思っているよりものどがカラカラに渇いていた。
秋の夜長にふさわしくないホラーな一夜だった。
イガイタイ
合掌