630発目 大盛りの話。


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息子は卵アレルギーだ。 アレルギーのひどさを数値にすると「その食べ物を除去した方がいいレベル」と呼ばれるもので400だとか500のところ、息子は1,000を超えている。 そのため「完全除去」する必要がある。

 

外食する際には、必ず店に私か妻が先に入り食べられそうなものがあるかどうかをメニューで確認し、それから入店する。

 

長野県にある美ヶ原高原に行ったときのことだ。

 

山のてっぺんにある展望台で食事をしようということになった。 そこは食券を事前に買うシステムのところで2店舗が食事を提供していた。 ひとつはカレーライス、もう一つはそばを中心にしたメニューだった。 事前の確認をするまでもなく、「卵は使ってないな」 と思ったので迷うことなく入店した。

 

「どうするや?カレーか?そばか?どっちがいいと?」

 

息子にそう尋ねたら、しばし思案した後、彼はカレーを選択した。カレー屋の前での会話だったので、店員もほっとしたような表情を浮かべている。

 

「もしかして福岡から来られたんですか?」

 

店員の若い女性が聞いてきた。

 

「いいと?って言ってたんで、もしかしてと思って。」

 

「ああ、福岡の出身ですが横浜から来ました。」

 

方言がなおらないんです、とも付け加えた。 彼女は自分が以前、福岡で働いていたことを話し出し、方言が懐かしいとも言っていた。 親近感を覚えたのか、彼女は気遣いを見せだした。

 

「もしかしたら辛いかもしれませんから、お子様用のカレーの方がよろしいのじゃないですか?」

 

「どげんや?辛いのイケるか?」

 

「どんくらい辛いかによるねぇ。でもさ子供用のカレーやと少ないんやないん?」

 

息子は大人顔負けの大食漢だ。 味よりも量を重視する。 彼女は更に気遣いを見せた。

 

「だったらちょっと食べてみる?」

 

そう言って店の奥へ引っ込んだ。

 

「気が利く姉ちゃんやの?」

 

息子に同意を求めたが案に相違して息子は難しい顔を見せた。

 

「そうかねえ?気が利いとんかねぇ?」

 

「だって味見させてくれるんぞ。」

 

「福岡やったら当たり前にさせてくれよったやん。」

 

確かにそうだった。福岡のカレー店は、何も言わなくても子供には試食用にスプーンに一口ずつ辛さの違うカレーのルーを持って来て食べさせてくれていた。

 

「けど、ここは福岡やないし、山のてっぺんやん。気が利くやん。」

 

「まあ、お父さんがそう言うならそうやろや。」

 

あれ?どうした? 腹が減って機嫌が悪いのか? 彼女が厨房の奥から戻ってきた。 手にはルーを少し入れた小皿を持っていた。

 

「どうかなぁ?大丈夫かな?」

 

「辛い。 無理。 」

 

にべもなく息子は小皿を返した。

 

「じゃあ子供用にするか?」

 

「少ないやん!」

 

「あ、だったら大盛りもできますよ。」

 

「ああ、すみません。じゃあ大盛りにしてください。 の?それでええの?」

 

「ん?ああ、それでいいよ。」

 

出来上がったらブザーの鳴る器具を渡され我々は自席に戻る。

 

いつもは人懐こい息子が今日はおかしい。 私はカレーの出来上がりを待つ間に息子に尋ねてみた。

 

「どうしたんか? 大盛りにしたし、文句ないやろ? お姉ちゃんも気が利くし。 良かったやん。」

 

「ああ、別に文句はないよ。」

 

「何か変やない?お前の態度。 おかしいぞ。」

 

「別におかしくないよ。」

 

口ではそう言っているが何かがおかしい。 そうこうしているうちにブザーが鳴った。

 

トレイにカレーライスを置いて運んできた息子は、そのときだけはうれしそうな表情で、いただきますと言ってカレーを食べだした。

 

ああ、俺の考えすぎかな?と思っていたそのときだった。

 

「お父さん。大盛りってさ、分からんよね?」

 

「何が?」

 

「いや、この店が普段どれくらいのご飯を注ぎよるんか知らんやん?だけ大盛りが本当に大盛りか分からんやん?」

 

「おお、まあそう言われてみりゃそうかの? なしか? 少ないんか?」

 

「いや、ちょうどいい。」

 

どうした息子? 今日は文句が多いなぁ。

 

「あのさ、ご飯を大盛りにするん?」

 

「何が?」

 

「いや。カレーの大盛りってさ、カレーは増やさんの?ご飯だけ?」

 

「ああ、普通はご飯だけが大盛りやなぁ。」

 

「足らんやん! 白いご飯があまるよ。」

 

「いや、そうやけども・・」

 

「オレさ、カレーライスを大盛りって言ったよね? 白ご飯だけ大盛りって言ってないよね?」

 

おいおい。典型的なクレーマーの理論やないか!

 

「全然、気が利かんやん。」

 

「いやいや、まあまあ、落ち着けって。そしたらお代わりするか?」

 

「いや、そういう問題じゃないよ。」

 

「でもあのお姉ちゃんさ、福岡で働いたことあるっち言いよったけ、それでサービスしてくれたんかもよ?許してやれよ。」

 

「いや、許せんね。」

 

「あ、そしたらお父さんの唐揚げ1個やるよ。それでよかろ?」

 

「違うんよ、お父さん。」

 

ふうっと大きなため息をついた息子はこう言った。

 

「あの姉ちゃんさ、オレのことお嬢ちゃんって言ったんよ。」

 

あら。

 

女の子に見られたことが嫌だったのね。

 

ムズカシイトシゴロ

 

合掌

 

 

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