あれからどれくらいの月日が経っただろうか?
まだ、さほど経ってない気がする。
かつて私は 612発目 方針を変える話 でお伝えした通り、略語の使用を解禁している。 あれからというものは、かなり積極的に 「東急」とか「京急」とか「東横」などと口にしている。 だんだん恥ずかしさもなくなってきた。
俺もだいぶ横浜に馴染んできたな、とほくそ笑んだりもした。
だが、思いもよらないところに落とし穴があった。
「いや、ヤマシタさん。 それはもはや略語じゃありませんよ。」
若いホステスが私に放ったこの何気ない一言がどれだけ私に衝撃を与えたか! つまり彼女曰く、東横とか京急はすでに定着してるため略語とは、みなさない。とジャッジされたのだ。
「え?じゃあファミマとかミスドは?」
「それもダメ~」
定着したらそれは略語とみなさない。 そんなルールがあったなんて!
そうか、そういえば経済もそうだな。
もともと経済という言葉は「経世済民」の略だ。 中国の故事で使われた言葉で、意味は文字通り 「世を納め国民を救(済)うこと」だ。 日本に英語が入って来た時にeconomyの訳語としてこの語が使われたため、今では経済という言葉自体がエコノミーの意味になっているが、もともとは政治という意味も含めた広義で使われていた言葉だ。
いつの間にか経世済民が経済と略され、それが定着したため略語という概念すら薄れている。 というよりも君たち若い子は経済が略語だったなんて!って思ってるんじゃないの?
と蘊蓄と侮蔑の混じった話をしてみたところ、若いホステスの反応は私が思っていたものとは少し違ったものだった。
「はい、知りませんでした。すご~い。」
「初めて聞いたと?」
「はい。それな!」
「それな?」
「はい。それな、です。」
「それな、です?」
新しい言葉を耳にした。 それな?
「それ、なるほど、の略です。」
お、おい!
まだ略語のファーストステージもクリアしてないのにいきなりステージアップかよ!
「そっちの方が、初めて聞くけど。 みんな使っとると?」
「だいたい、若い子はみんな使ってますよ。」
まじか~!
ああ、なんかあれだな。先生のジョークにみんなが大爆笑してるのに俺だけ聞き逃して、意味も分からずへらへらしてる時の気分だな。
「へ~、それな。」
使ってみた。
「あ、そうです、そうです。上手ですね。すぐ使えた。」
赤子が初めて歩いた時の褒められ方だな、これじゃ。 あんよが上手、あんよが上手。
「とりま、飲みましょう。」
「とりま?」
「とりあえず、まあ。の略です。」
世の中の短縮スピードに付いていけない私でした。
メデタシメデタシ。
合掌