親孝行らしいことをしてみてもいいかな、と数年に一度思いつく。 たいしたことはできないが両親を連れて旅行に行き、非日常を味わうのも一興ではないか?と。最後にそう思ったのは、私がまだ福岡にいたころだった。
早速、母親に連絡を取り日程を調整する。 行き先は?せっかくだから北海道はどうだ?と。 母親は乗り気だったが案に相違して父親が拒んできた。
「年を取ってからの、腰やら膝が痛いんや。長時間座るのも、やおいかん。1時間以上座ったら腰やら膝がしびれてくるっちゃ。」
やおいかん、とは良くないとか上手く行かないとか、簡単ではない、という意味だ。 年老いた父を一人置いて旅行に行くのは忍びないから行き先を変えよう。近場の海水浴場に妹家族も誘って1泊2日の旅行にしよう。 唐津あたりはどうだろうか?車で1時間くらいだし。
「おお、唐津くらいやったらええぞ。車は何台で行くや?」
父が乗っている車は7人乗りなので、前日から私達が実家に帰り、私の家族と両親を乗せ車で唐津に向かう。現地で妹家族と落ち合う、そうゆうスケジュールで合意した。
旅行前日。 よく考えたらウチからの方が唐津に近いから両親にウチまで来てもらい行けばよかったと後悔もするが、父の腰痛などを考慮するとそういうわけにも行かないだろう。 私は家族を連れ実家に帰る。
帰省する日も休みにしていたので朝から準備して実家へ向かう。私の自宅から実家までは高速道路を飛ばせば1時間もかからない。子供達もジイジとバアバに会えるのを楽しみにしていた。
お昼前に到着し、母親の作ったお昼ご飯をみんなで食べた。 昼食後、父親はソファーの下に座りテレビを見ていたが、そのまま座ったままの姿勢で居眠りを始めた。
私はコーヒーを飲みながら食卓で母親と話していた。
「父ちゃんの腰は相当悪いんね?」
「いや、わからん。膝も痛いっち言いよるやろが?普段からぎょうらしい所がある人やけね。」
ぎょうらしい、とは大げさという意味だ。
「昨日もあそこにああやって座って5時間くらい動かんやったんよ。」
「え?」
「何が?」
「5時間も座っとったん?」
「そうよ。逆にすごいよね。」
福岡空港から新千歳空港まで2時間15分。
北海道行けたやん!
数ヵ月後、母親から連絡があった。
「あんまり腰が痛いっち言うけん病院に連れて行ったんよ。」
「どうやったん?」
「座りすぎっち。」
オダイジニ
合掌