576発目 一枚上手の話。


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平日に休みをもらって、以前お世話になった人に会いに行ってきた。その日は1泊し、そしてまた翌日に横浜へトンボ返りの強行スケジュールであったにも関わらず、充足した時間だった。

 

横浜に来て2か月が経過したが、その間に随分とたくさんの電車に乗った。首都圏は平日の昼間であろうが夜であろうがラッシュアワー以外の時間でもそこそこ混みあっている。対して地方の電車の昼間の乗客数ってこんなに少ないのかと驚いた。

 

空港へ向かう地下鉄の私が乗った車両はその正面に座る大学生カップルの会話が聞こえるほどだった。

 

「就活どう?」

と彼女が彼氏に尋ねた。

 

「なかなかねぇ。俺はさ、毎日毎日ネクタイ絞めて満員電車で通勤するような生活はしたくないんだよ。」

 

彼が言ったセリフは会社勤めのサラリーマンを揶揄した言葉なのか、それともその言葉通り「ネクタイを締める」行為自体を嫌ってるのか判然としなかった。おそらく前者だろう。

 

彼女は彼氏を少し軽蔑するような目で見て、そして私の方をチラリと見た。もう一度視線を彼氏の方に戻すと、ズバリ私が疑問に思ったことを聞いた。

 

「ネクタイが嫌いなの?」

 

「ばか。何言ってんの?サラリーマンが嫌だっつってんの。個性のないスーツ着てさ、ネクタイ絞めてさ。」

 

「スーツが嫌いなの?」

 

「スーツも嫌いだしネクタイも嫌いだし、サラリーマンが嫌なんだよ。」

 

「でも、最近はクールビズだからネクタイしない人も増えてるよ。」

 

「スーツは着るだろ?」

 

「その割にはさ、成人式の時はスーツにネクタイだったじゃん?」

 

「ぐううう。」

 

 

ぐうの音(ね)も出ない

一言も反論や弁解が出来ない。

 

 

私は初めて、ぐうの音が出た人を見た。

 

 

ワカレルダロウナ

 

合掌

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