『謝罪』 第9話


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『そこで私は堺に頼んで君を探してもらった。 君は偶然にも不動産を取り扱う仕事をしている。 だから』

 

『だから?』

 

『君にあの土地の売却を阻止してもらおうと思ったんだ。』

 

『あの土地は売却できません。 でも 相続人なら、身内なら手にすることができます。』

 

『戸籍上では君もあの男も私の息子となっている。』

 

ヤマシタは驚いた。 この年齢になって父親が居ることを知らされた。 ずっと母1人子1人と思っていたのに、突如現れた老人が自分の父親だと聞かされ、しかもその人はかなりの資産家だ。

 

ヤマシタは子供の頃を振り返ってみた。 そういえば、と思い当たる節がある。 母子家庭であるにも関わらず、母親はヤマシタが高校を卒業するまで働いては居なかった。 母からは父が死んだと聞かされてたし、そのときの保険金があるから働かなくても大丈夫と言われていた。

 

『あなたが学校から帰ってきたときに寂しい想いをさせたくないの』

 

母はそう言っていた。 だが、もしかするとこの老人がずっと資金を援助していたのではないか?

 

『清宮さん、もしかして私たち親子に資金援助をしてくれてました?』

 

清宮はうつむいたまま、

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

ヤマシタはその援助を受け入れていた母親のほうに腹が立った。 だが、もうどうしようもない。 そういえば、学生の頃に不可思議なことが数回起こったことがある。 それも清宮の仕業なのか?

 

『もしかして、もしかして私が高校生の頃、周囲がみんな女性経験済みで私だけが未経験だったとき、道で声をかけてきたあの綺麗なお姉さんは・・・』

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

『もしかして、もしかして私が中学生の頃、母に内緒で競輪に行き、母の財布からくすねた10万円をすったときに、ぶつかってきた男が落として行ったあの財布も・・・・』

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

『もしかして、もしかして私が小学生の頃、梅雨時に雨が止まなくて外で遊べないとぐずっていたら全天候型屋内遊戯施設が家の近くに出来たのも・・・・』

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

『す、すべて、、、ですか?』

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

ヤマシタがあまり恵まれない境遇に居ながら、これまで何不自由なく過ごせてきた背景には全てこの清宮が関与していたのだ。

 

『ちょっと、あまりにも話の展開が急すぎて、ついていけません。』

 

『察するよ。すべてあの堺君に頼んでやってもらっていたんだ。』

 

ヤマシタはしばらく考えた。堺と清宮の関係は分かった。だがいまひとつ分からないのが清瀬市のあの土地の件だ。

 

『で、私はあの土地について何をどうすれば良いのでしょうか?』

 

『あの男が売却するのを阻止してもらえれば助かるんだが。』

 

『そうゆうことでしたら、あの土地は生産緑地なので売却できませんよ。』

 

『何? そうだったのか。』

 

清宮はほっとしたようにため息を吐いた。

 

『いや、君には本当に感謝するよ。 これからも君たち親子の面倒は私が見て行くから安心してくれ。』

 

『いえ、もう結構です。 これ以上甘えるわけには行きませんから。』

 

 

ヤマシタは清宮の自宅を辞去した。

 

数ヵ月後、またいつもの生活に戻ったヤマシタは会社の同僚からコンパに誘われた。 池袋の西口にある全国チェーンの居酒屋がその会場だった。 女性の数は男性の数に合わせて3名だった。 珍しいことに3名ともがとびきりの美人だった。 職業を聞くと3人ともが雑誌のグラビアやモデルの仕事をしているとのことだった。

 

さらに、珍しいことに3人ともがヤマシタに興味を持って色々な質問をして来た。

 

1次会から2次会のカラオケに向かう途中で会社の同僚が話しかけてきた。

 

『今日はなんだかヤマシタだけがやけにもてるよな?』

 

『そうかな?ま、それがオレの実力だよ。』

 

ふと、振り返ったときに電柱の陰に堺が立っているような気がした。 もう一度見るが堺の姿は既に無い。 本当にいたのか?幻を見たのか?

 

『すまない。 出すぎた真似だとは思ったんだが、放って置けなくて。』

 

という清宮の姿が思い出された。

 

オワリ

 

合掌

 

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