476発目 どっちか迷う話。


ライナーノーツ

かつてない程の緊張感が私を襲う。

 

時間がこんなにもゆっくりと感じたのは

何年ぶりだろうか?

高校の社会の授業以来じゃなかろうか?

あの時、社会の教師が

 

『ここ大事やから、赤ペンで

だ~っと線引いとけ!』

 

と得意げに言ってたが

その内容が私の人生において

大事だった瞬間は今のところ

来てないぞ!

 

果たして線を引く必要はあったのか?

 

いや、それよりも今、この時間を

どうやって乗り越えるのかが

目下の私の課題だった。

 

正面に座る人がしゃべっている隙を

ついて私は腕時計をそっと見た。

 

まだ2分しか経ってない。

 

そう。

2分前に私はこの人を

応接室に通した。

 

突然やって来て、事務所の入り口で

わ~わ~言い出したのだ。

 

おそらく、何らかのクレームだと

ピンと来た。

 

それは良い。

 

いや、厳密に言うと良くないのだが

この際、クレームの内容よりも

私が困っているのは

別のことだったんだ。

 

『私はね、そうゆう御社の姿勢が問題だって

言ってるんですよ。』

 

つばを飛ばして罵詈雑言を

吐き出している。

 

あ~。さぞかし気持ちいいだろうなぁ。

 

いやいや、そんなことより。

 

困った、この人。

 

男なん?女なん?

 

全っ然、分からんやん。

 

ぱっと見、女の様でもあるけど

声は低いし男かな?

私って言ってるしなぁ。

あ、でも社会人だと男も

私って言うしなぁ。

 

背が低いってだけで女って

決め付けるのもなぁ。

でも華奢な体やもんなぁ。

 

髪型もなんか丁度、どっちとも

言える髪形なんよなぁ。

 

ってゆうかこの人、ある意味

バランスがいいよね。

丁度どっちにも見えるって。

 

『あなたねぇ、聞いてるの?』

 

あ!あ~!

あなたって言った!

ってことは~、

いやいや、福岡の男なら

絶対、相手のことをあなたとか

言わんけど、標準語なら

言うかも知れんしなぁ。

 

じゃ、どうする?

聞くか?

 

え? 聞く?

 

クレームを電話じゃなく

わざわざ出向いてまで言いに来る人に

面と向かって?

責任者ですって名刺出したのに?

『男ですか女ですか?』って?

 

無理無理無理無理無理無理無理

 

絶っ対、無理!

 

そんなこと聞いたら本社にまで

行きそうだよ、この人。

 

なんかヒントくれよ~。

 

 

は!

 

胸!!

 

そうや。 おっぱいや!

 

うわ~、微妙やなぁ。

 

オッパイの小さい女、とも

胸板の厚い男、とも

どっちとも取れるや~ん。

 

は!

 

そうや!

 

すね毛!

 

あ~、でもな~。

どのタイミングで見る?

もう二人してソファーに座ってるしなぁ。

さりげな~く、ボールペン落とすか。

 

コロン。

 

うわ!

つるっつるやん!

これはもう女やね。

白くて細い!

なんや、おばちゃん、

綺麗な足、しとるやん!

 

は~、スッキリした。

 

 

『このまま放置されたんじゃ

こっちとしても困るんですよ!』

 

『かしこまりました。早急に

手配し、また完了した旨、

報告いたします。

申し訳ございませんでした。』

 

『ちゃんとやってくださいよ!

私もこんなこと言いたかないんですよ!

でもね、はっきりさせとかないと

ウチの女房からもどやされるんですよ!』

 

男かぁ~。

 

ニブンノイチノカクリツデマチガエル

 

合掌

 

 

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