かつてない程の緊張感が私を襲う。
時間がこんなにもゆっくりと感じたのは
何年ぶりだろうか?
高校の社会の授業以来じゃなかろうか?
あの時、社会の教師が
『ここ大事やから、赤ペンで
だ~っと線引いとけ!』
と得意げに言ってたが
その内容が私の人生において
大事だった瞬間は今のところ
来てないぞ!
果たして線を引く必要はあったのか?
いや、それよりも今、この時間を
どうやって乗り越えるのかが
目下の私の課題だった。
正面に座る人がしゃべっている隙を
ついて私は腕時計をそっと見た。
まだ2分しか経ってない。
そう。
2分前に私はこの人を
応接室に通した。
突然やって来て、事務所の入り口で
わ~わ~言い出したのだ。
おそらく、何らかのクレームだと
ピンと来た。
それは良い。
いや、厳密に言うと良くないのだが
この際、クレームの内容よりも
私が困っているのは
別のことだったんだ。
『私はね、そうゆう御社の姿勢が問題だって
言ってるんですよ。』
つばを飛ばして罵詈雑言を
吐き出している。
あ~。さぞかし気持ちいいだろうなぁ。
いやいや、そんなことより。
困った、この人。
男なん?女なん?
全っ然、分からんやん。
ぱっと見、女の様でもあるけど
声は低いし男かな?
私って言ってるしなぁ。
あ、でも社会人だと男も
私って言うしなぁ。
背が低いってだけで女って
決め付けるのもなぁ。
でも華奢な体やもんなぁ。
髪型もなんか丁度、どっちとも
言える髪形なんよなぁ。
ってゆうかこの人、ある意味
バランスがいいよね。
丁度どっちにも見えるって。
『あなたねぇ、聞いてるの?』
あ!あ~!
あなたって言った!
ってことは~、
いやいや、福岡の男なら
絶対、相手のことをあなたとか
言わんけど、標準語なら
言うかも知れんしなぁ。
じゃ、どうする?
聞くか?
え? 聞く?
クレームを電話じゃなく
わざわざ出向いてまで言いに来る人に
面と向かって?
責任者ですって名刺出したのに?
『男ですか女ですか?』って?
無理無理無理無理無理無理無理
絶っ対、無理!
そんなこと聞いたら本社にまで
行きそうだよ、この人。
なんかヒントくれよ~。
は!
胸!!
そうや。 おっぱいや!
うわ~、微妙やなぁ。
オッパイの小さい女、とも
胸板の厚い男、とも
どっちとも取れるや~ん。
は!
そうや!
すね毛!
あ~、でもな~。
どのタイミングで見る?
もう二人してソファーに座ってるしなぁ。
さりげな~く、ボールペン落とすか。
コロン。
うわ!
つるっつるやん!
これはもう女やね。
白くて細い!
なんや、おばちゃん、
綺麗な足、しとるやん!
は~、スッキリした。
『このまま放置されたんじゃ
こっちとしても困るんですよ!』
『かしこまりました。早急に
手配し、また完了した旨、
報告いたします。
申し訳ございませんでした。』
『ちゃんとやってくださいよ!
私もこんなこと言いたかないんですよ!
でもね、はっきりさせとかないと
ウチの女房からもどやされるんですよ!』
男かぁ~。
ニブンノイチノカクリツデマチガエル
合掌