『謝罪』 第5話


ライナーノーツ

ヤマシタはその看板を見て腰が抜けそうになった。 看板に書かれていた文字は 『生産緑地地区 』 の6文字だった。

 

都市計画区域内に田んぼや畑を所有していると宅地並みの固定資産税が課税される。 これを『宅地並み課税』と呼ぶのだが、所有者にしてみればたまったもんじゃない。 じゃあ、田んぼ辞めてアパートかマンションでもぶっ建てようか?となるだろう。 だが、そうすると農業生産力が落ちてしまうことを危惧した国が打ち出した政策がこの『生産緑地』だった。

 

簡単に言ってしまうと 『あたくし、ここで一生、百姓として暮らして行くって約束します。』 と宣言した人に対して、びっくりするぐらい固定資産税を優遇しちゃる、という制度だ。  つまり、この土地は農業でしか利用しない代わりに宅地並みの課税はやめてあげるし、さらにもっと固定資産税を下げてやるからがんばって作物をこしらえてね、って事だ。どれくらい下げてくれるかって? 宅地の数百分の一になるんだ。しかも相続税も猶予される。 もちろんどんな土地でも生産緑地の指定を受けられるかっていうとそうでもない。 日当たりが良くて500平米以上などの諸条件を満たしてないとだめだ。 この土地は全ての条件を満たした上で生産緑地の指定を受けたのだろう。

 

こうなるともう、農地以外の転用や転売はできない。標識の設置は義務付けられているが、おそらく何かの拍子に外れてしまったのだろう。  だが、この生産緑地も条件が揃えば売却が可能だということをヤマシタは知っていた。 裏技という程の物ではないが3つの条件が揃えば売却も転用も出来るのだ。

 

ひとつは、生産緑地の指定を受けてから30年が経過していること。 もう一つは、病気などの理由で農業に従事できなくなった場合、この場合は医師の診断書が必要になる。 そして最後に、本人つまり土地の所有者が死亡してしまった場合に相続人が農業に従事しない場合。 これら3つのいずれかに該当すれば生産緑地の指定を外せる。 外れれば売れる。

 

ヤマシタは連絡の取れないマッサンではなく、マッサンを紹介してくれたユウキ社長に会いに行く事にした。 この日のヤマシタは電車でなく自家用車で移動していた。 ユウキ社長のオフィスは豊島区池袋にあり、用事が済んだら川口まで足を延ばし土地所有者の自宅を確認しておく腹積もりだった。

 

ユウキ社長のオフィスに電話し在席を確認したところで車のエンジンをかけた。 清瀬市から池袋までなら車で約1時間だ。 ヤマシタは車を運転しながら考えを整理した。

 

土地の所有者は清宮氏で、売却の意思は無い。しかも遺言の有無は不明だが市に寄付しようと考えている。 ところがコレを売却しようとしているブローカーがいる。 マッサンだ。 マッサンと清宮氏の関係はおそらくユウキ社長なら知っているだろう。 いずれにしても現況のままだとこの土地は売れない。 それをマッサンに伝える前にユウキ社長に相談して、所有者である清宮氏に会えるのなら会おう。

 

しかし会ってどうする? ヤマシタは自問自答を繰り返す。 会って生産緑地を外し売却するように説得しよう。 買い手は心当たりがある、とでも言っておこう。 実際問題として生産緑地を市に寄付するといっても市は拒否するだろう。 そんなことより現金で相続税を払ってくれと。 だが生産緑地は相続人が営農を続ける限り相続税を猶予される。つまり払わなくていいのだ。 だが営農を辞めたとたん相続時にさかのぼって税金を納める必要がでてくる。 市がこの土地を寄付された場合、当然だが営農は出来ないので市が市のために相続税を払うはめになる。そんなことは前例がない。 よって清瀬市は間違いなく寄付を拒否する。 そう説明しよう。 だったら、どうする? 生産緑地を解除して売却しましょう。

 

ヤマシタがあらかた考えをまとめたところで、池袋に着いた。 ユウキ社長は社長室でヤマシタを待っていた。

 

『ヤマシタさん、どう? あの土地。 買い手は見つかった。』

 

『それが社長、ちょっと困ったことがあって。 あの土地って売れないんですよ、今のままじゃ。 もしよければ所有者の清宮氏に面談できる段取りをしてもらえませんか?』

 

ユウキ社長は明らかに動揺していた。

 

『いやさ、俺はその清宮さんって人は直接知らねぇんだ。 間に1人さ、紹介者がいるんだ。』

 

『だったらどうして私をマッサンに紹介したんですか?』

 

『い、いや、あの、その、紹介者から頼まれてさ。』

 

『え? ってことはその紹介者の方ってのは私も知っている方ですか?』

 

『え? い、いや、 多分、知らないと思うんだけど・・・・』

 

『社長、何を隠してるんですか? 教えてくださいよ。』

 

ユウキ社長はうつむいたまま黙ってしまった。

 

ツヅク

 

合掌

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