『謝罪』 第4話


ライナーノーツ

『この電話は電源が入っていないか、お客様のご都合によりお繋ぎ出来ません。』

 

受話器の向こう側では無機質なアナウンスが繰り返されるばかりだった。 ヤマシタはマッサンがいるであろう都内の高級ホテルを目指した。 ホテルのロビーはちょうどチェックインを待つ客でごった返していた。 フロントカウンター前の混雑を避け、するりするりと人ごみを抜けたヤマシタはお目当てのラウンジにたどり着き、周囲を見回した。 だがそこにマッサンの姿は無かった。

 

 

黒塗りの車が静かな住宅街に音も無く滑り込んできた。 あるお屋敷の前で停まると運転手が降りてきて後部座席のドアを恭しく開けた。 後部座席から降りてきた男は90を少し過ぎたくらいの男だった。 車の中からもう1人の男が声をかけた。

 

『じゃあ、清宮さん、また。』

 

『ああ、送ってくれてありがとう、堺さん。』

 

堺と呼ばれたその男は運転手に行き先を告げた。 行き先は羽田空港だった。 堺は羽田空港に着くと、後ろを気にしながらバスのチケット売り場に行き、成田空港行きのチケットを購入した。 羽田から成田へ向かうリムジンバスの最終便に乗り込んだ堺は腕時計を見た。

 

21:05

 

バスは定刻通りに成田へ向けて出発した。 車内は他の客はおらず、堺ともう1人の男だけだった。 バスが走り始めてしばらくたつと堺の後ろに座っているもう一人の男がシートの間から堺に話しかけた。

 

『どうでした?』

 

『ああ、あなたの言う通りやってきましたよ。 もちろん余計なことは一切口にしてませんよ。ただ、彼は使えると思いますけどね。 お父上も彼のことは気に入っているようだ。 』

 

『親父が? 何故、親父が彼のことを知ってるんだい?』

 

男は堺を疑いのまなざしで見つめた。

 

『よしてくださいよ、私じゃありませんよ。 私はこう見えて口は堅いんですよ。 おそらくお父上は別のルートで彼にたどり着いたのでしょうね。』

 

『ま、一応、信じておきましょう。』

 

車内アナウンスが成田空港第1ターミナルへ到着することを知らせている。

 

『では、私はこれで。』

 

『堺さん、今回は何日の予定だい?』

 

『今回は一応、1週間の予定です。 もしかすると少し早まるかも知れませんがね。』

 

『帰国したら、連絡をくださいね。』

 

『はいはい、承知してますよ。』

 

堺はバスを降りるとホッと息を吐いた。 バカ息子が!と毒づいたが、そのバカ息子のおかげで商売が成り立っていると思うとイライラも少し収まるのだった。 今回は成田空港から香港へ向かう。 堺の目的は清宮氏から頼まれた資金の移動だった。 国内の不動産をあれやこれやするよりもはるかにスマートでリスクの少ない仕事だ。 しかも報酬が良い。 堺の顔は自然とほころび、笑みが漏れていた。

 

ホテルでマッサンを見つけられなかったヤマシタは翌日、思い切ってもう一度あの喫茶店を訪ねてみた。 だが、こちらも運の悪いことに休業だった。 ピタリと閉じたシャッターに張り紙がしてある。

 

『1週間ほど休みます。  店主』

 

仕方なく、ヤマシタはもう一度あの土地へ行ってみた。 1時間くらいかけて土地の周囲をうろついてみた。 昨日来た時と何ら変わりはない。 空を見上げるとまるで天井の無いお屋敷のようだった。 つまり抜けるような青空って事だ。 まぶしい太陽の光に目を細めたとき、視界の端っこでキラリと何かが光った。 不思議に思い、近づいたヤマシタの足元には看板が転がっていた。 随分と古い看板だ。 満遍なくさびている。 ヤマシタは近くに落ちていた木の枝で看板をひっくり返してみる。

 

その看板にはヤマシタのこの二日間を完全に無駄にするようなことが書かれてあった。

 

ツヅク

 

合掌

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