『謝罪』 第6話


ライナーノーツ

ユウキ社長とヤマシタの間にしばらく沈黙の時間が続いた。 その沈黙を破ったのは1本の電話だった。 二人とも自分の携帯電話を確認する。 かかって来てるのはユウキ社長の方の携帯電話だった。 ちょっとごめん、という仕草をして立ち上がった社長は電話を取りながら社長室の外に出て行った。

 

しばらく1人にされたヤマシタは社長が戻ってくるのをじっと待ちながら考えた。 何かがおかしい。 この案件自体が何かに仕組まれているような、そんな気がする。

 

ユウキ社長が戻ってきてソファーに座りながらこう言った。

 

『俺も詳しい話は知らないんだ。 その紹介者はさ、堺さんって言う人なんだけど 俺がまだこの会社を作る前に勤めていた会社の先輩でさ。 今でもちょこちょこ飲みに行くんだよ。 ほら、それこそマッサンと知り合ったスナックにさ。 そんで、1年くらい前にさヤマシタさんに会社の土地を売ってもらったじゃん? その話を堺さんにしてたみたいなんだよ、俺。 でも俺は全然おぼえて無くてさ。 そしたらこないだ、そうね2週間くらい前かな? 急に堺さんから電話があってさ。』

 

どうやらその堺さんという人が1年位前にユウキ社長が話してたのを覚えててヤマシタを紹介して欲しいと言って来たらしい。 ただ、そのお願いってのが少し変わっててヤマシタを堺に紹介するのではなくてマッサンに紹介してくれという依頼だった。 ユウキ社長にとって堺さんってのは絶対的存在らしく、頼まれたことは断れないし、そもそも断る理由は無かったから、ヤマシタとマッサンを引き合わせたとのことだった。

 

『私はその堺さんって人を知らないんですけど。』

 

『だろうね。 堺さんも知らないって言ってた。』

 

『え?どうゆうことですか?』

 

『いや、俺も不思議に思ったから聞いたんだよ。 堺さんはヤマシタさんと知り合いなんですか?ってさ。 そしたら知らないよって。 堺さんも頼まれたんだって。』

 

『じゃあ、その堺さんに会えばはっきりしますね? 堺さんの連絡先を教えてください。』

 

『それがさ、さっきの電話が堺さんだったんだけど、今は香港にいるらしいんだ。 帰国するのは今週末だってさ。』

 

『じゃあ、その堺さんとマッサンってのはどうゆう関係なんですか?』

 

『俺と一緒に飲みに行ったときに紹介したんじゃなかったっけか? ごめん、ほら俺って酒飲んだら記憶なくすとこあんじゃん? だからさはっきり覚えてないんだよねぇ。』

 

ユウキ社長は確かに記憶をなくすほど酒を飲むタイプだった。 ヤマシタもソレを知っているのでそれ以上ユウキ社長を問い詰めるのをやめた。だが、あることに気がついた。

 

『ちょっと待ってくださいね、社長。 社長にマッサンが土地を売りたいって相談と堺さんからの依頼ってどっちが先でした?』

 

『ああ、そうだな。え~っと。 先週の木曜日に飲みに行ったときにマッサンに会ったから・・・ 堺さんの電話は確かゴルフやってるときにかかってきただろ? だから先々週の日曜日か。 あ、そうだ、マッサンの方が後だよ。 どして?』

 

『それじゃあ、おかしいんですよ。 だって堺さんがまず、ユウキ社長に私とマッサンとを引き合わせろって頼んできましたよね? で、その後にタイミングよくマッサンが社長に売り地の話をして、じゃあっつって私を紹介することにしたんでしょ?』

 

『だよね。 そうなるよね。』

 

『マッサンが売り地の話をして来なかったらどうやって私をマッサンに会わせるつもりだったんですか?』

 

『ああ、だから最初はそのスナックにヤマシタさんを連れて行って、でマッサンも呼び出して会わせようかと思ってたんだよ。』

 

『でもそれって面倒ですよね? 普通に考えたらですよ、もし私が堺さんなら ユウキ社長から私を紹介してもらって、でその後でマッサンに紹介すれば良いじゃないですか? なんでわざわざユウキ社長に頼んだのかが分からないんですよ。 その堺さんは私には会いたくないけどマッサンには会わせたいってことですかね?』

 

『だろうね。 堺さんはヤマシタさんに会いたくないのかもね。』

 

『何故でしょうか?』

 

『いや、そんなこと俺に聞かれても分かんないよ。 香港から帰ってきた堺さんに直接聞いてみなよ。』

 

『だって、私のことを避けてるんでしょ? 会ってくれないかもしれないじゃないですか。』

 

『じゃ、俺が聞いといてあげるよ。 どうせ帰ってきたら会おうって事になってるからさ。』

 

『え?どこで会うんですか?』

 

『いや、空港に迎えに行くんだよ。成田まで。』

 

『だったらその時、私も連れて行ってくださいよ。』

 

『いや、まずいって。それはまずいよ。 堺さんに聞いてからにしないと。』

 

『大丈夫ですよ。 私が無理を言って連れて来てもらったって言いますから。』

 

ユウキ社長はしょうがねえなという顔で手元のメモに日付と到着時刻と到着便名を書いた。

 

『ほら、ここまでは教えてやるからさ、自分で行きなよ。 やっぱ俺が連れて行くとまずい気がするからさ。 な、頼むよ。 俺から聞いたって言わないでね。』

 

ヤマシタはメモをじっと見つめうなずいた。

 

メモ用紙には『11/5金JAL026 20:25』 と書いている。 ヤマシタは手帳の11月5日の欄に書き込んだ。

 

ツヅク

 

合掌

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