461発目 恋の駆け引きの話。第4話


 

ライナーノーツ

 

顔を引き攣らせているヒロシにヤマシタは笑いながらこう告げた。

 

『ヒロシ、お前ケイコと一緒に観覧車乗って来い。』

 

コレは面白いことになったぞ、とヤマシタは内心で笑った。 観覧車で告白すると振られるという噂話を信じているケイコに観覧車で告白をしようとするヒロシ。 ヤマシタは生まれつき意地が悪いという性格だった。 この青空の下、誰かが振られるのをこの目で見ることが出来る喜びを今か今かと待ちわびていた。 つまりヤマシタはヒロシが振られることを確信していたのだ。

 

二人は全員が見守る中、観覧車に乗り込んだ。

 

『大丈夫かね?』

 

けんちゃんが心配そうな顔をヤマシタに向ける。 横を見るとヤスコも心配そうに見ていた。 ヤマシタはニヤニヤしている。

 

『ま、間違いなく振られるよ。 そのときは鬼のように笑ってやる。』

 

ヤマシタは不動明が永遠の命を手に入れたような笑いを浮かべた。

 

10分ほどして二人が戻ってきた。 ケイコはニコニコしている。 あれ?うまくいったん?ヤマシタはヒロシに駆け寄った。 小さな声でヒロシに耳打ちする。

 

『どうやったんか?』

 

ヒロシはうなだれている。 やはり振られたのか?

 

『言えんやった。』

 

先ほどの噂話が気になって告白できなかったらしい。

 

その後もジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に行ったりと全員で香椎花園を堪能した。女の子達は寮に住んでいるため夜の8時までには開放しないとならない。 少し早めの夕食を全員で摂ることになり、ヤマシタの自宅近くの居酒屋へ向かう。

 

運ばれてきた料理に目もくれず、ヒロシは芋焼酎を飲みまくった。 1時間くらいすると完全な酔っ払いが出来上がっていた。 トイレに行くのもままならないほど酔っ払っているヒロシはグニャングニャンになっていて、言葉も呂律が廻ってなかった。

 

『あ~あ、見事に酔っ払ったね。』

 

そろそろ時間だからという女の子3人を駅まで送るときにもヒロシは1人で歩けなかった。

 

『うっせふらか~し!まっこち!』

 

と意味の分からない宮崎弁を連呼していた。

 

駅に着き、切符を買った女の子達は改札を抜ける前に、ヤマシタやけんちゃんにお礼を言った。その時、ヒロシが1歩前に進み出て、みんなが見てる前でこう言った。

 

『ケイコ、俺、お前のことが好きっちゃん。 俺と付き合ってくり。』

 

宮崎弁だと『くれ』が『くり』になるのね。 ケイコはうつむいたまま恥ずかしそうにつぶやいた。

 

『地元に残してきた彼氏がおるんよ。』

 

振られた~! 観覧車じゃなくても振られた~! ヤマシタは笑いをこらえた。 ヒロシは心底ショックを受けた顔をしている。 ヤスコとけんちゃんは知らない人の振りをしている。 だめだ。ヤマシタは顔がにやけるのを止められなかった。

 

と、カズエがいきなりヤマシタにこう言った。

 

『サトル君、友達の不幸がそんなにおかしいと?』

 

ヤマシタは慌てて取り繕った。 ヤスコが追い討ちをかけるように注意する。 不謹慎だ、と。

 

そのまま気まずい雰囲気の中、彼女たちは駅のホームへと降りていった。 ヤマシタはヒロシの肩を抱き、『飲み直そうぜ。』と先ほどの居酒屋へ戻った。

 

座敷に座り、改めて今日はお疲れさんと乾杯をしなおした。 けんちゃんはヒロシに優しく声をかけた。

『ま、彼氏がおるんなら仕方ないよね。』

 

『ヒロシ君、なんで彼氏がおるかおらんか確認してなかったん?』

 

ヤスコが尋ねる。

 

『おらんと思ったんやもん。 おるならおるっち言ってくれよ~。』

 

『恋人がおらんそぶりを見せるところが、ケイコちゃんって誰かさんみたいやね。』

 

『ま、お前は振られると思いよったよ。 残念でもなんでもないわ。 観覧車で告白してないのに振られた。プププ』

 

『くっそう。言いたい放題言いやがって。お前なんか地獄に落ちろ!』

 

2週間後、日常に戻った3人はいつものようにヤマシタの家に集まり酒を飲んでいた。 テーブルの上にはヤスコからヤマシタ宛に届いた手紙が封を開けずに置いていた。ヒロシは手紙を開けろとヤマシタにせがむ。 たいした内容じゃないよ、と言いながら開封した。

普段からヤスコとは近況の報告などを手紙でやり取りしているのだ。いつもは3枚から4枚の便箋にびっしりと書き込まれた手紙がその日は1枚だけだった。 そしてたった一言こう書いてあった。

 

『終わりにしましょう。』

 

ヤマシタは頭の中が真っ白になった。 横から覗き込んだヒロシは腹を抱えて笑った。

 

『振られとる~!香椎花園にカップルで行ったもんやけ、振られとる~』

 

ヤマシタは酔った。 飲んで飲んで飲まれて飲んだ。飲んで飲みつぶれて眠るまで飲んだ。

 

やがて男は静かに眠るでしょう。

 

ツヅク

 

合掌

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