462発目 恋の駆け引きの話。第5話


 

ライナーノーツ


今回の失敗は失敗として受け留め、次にどう活かすか? 大事なのは気持ちの切り替えです。 と書いている本を読んだヤマシタは素直にそれを受け入れ、気持ちを切り替えた。

 

ヤスコとの破局はショックだったが前に進むしかないと考えたヤマシタは早速、カズエにアプローチする。 勿論、1人で行動を起こすことに不安を感じているヤマシタはヒロシを出汁に使うことを決めていた。 一方、出汁にされることを受け入れた振りをして自分が振られたことをヤマシタのせいだと考えているヒロシは仕返しの機会を今か今かと待ちわびていた。

 

香椎花園事件から数えて2ヵ月後、夏休みを終えたヤマシタたち3人は、けんちゃんが買った車でドライブに行く計画を立てた。 誘うのはカズエとカズミだ。 ヤマシタはこのドライブでカズエに決定打を打つつもりだった。

 

向かった先は山口県。 瓦そばで有名な川棚温泉だった。 季節はずれの土井ヶ浜海水浴場は閑散としていた。 誰もいないビーチで少し遊んだ後、川棚温泉に向かいホテルで瓦そばを食べた後、男女に分かれて温泉につかる。 風呂上りの火照った身体が冷めないうちに、福岡へと戻る。

 

途中の壇ノ浦パーキングで休憩を取り、関門海峡を眺める。 展望台から火の山公園を指差したヤマシタはカズエにこう告げた。

 

『あそこに見える山は火の山公園って言って、北九州の夜景が一望できるんだ。』

 

え~、見てみたい~というカズエに、シメタ!という顔をしながらヤマシタはこう畳み掛けた。

 

『次の休みのときに連れて行ってやるよ。』

 

カズエは何の疑問も持たずに、ヤマシタの提案を受け入れた。 よし。二人きりのデートにこぎつけたぞ、とヤマシタは心の中でガッツポーズをする。

 

翌週の土曜日。 カズエは寮母さんに外泊の許可を取った。 夜景を見ると門限に間に合わなくなることを考慮したのだ。 そのことを聞いたヤマシタは『これはイケる。』と確信した。

 

夕方、カズエを迎えに行き一路山口県下関市を目指した。 途中の小倉で食事をし、そこからは関門トンネルを抜け火の山公園を目指した。 週末の夜ということもあって周囲はカップルだらけだった。 展望台の柵にもたれかかるカズエに近づいたヤマシタは思い切って告白した。

 

『俺と付き合ってくれ。』

『ごめんなさい。』

 

その間、2秒。

 

ヤマシタの振られ人生の中でも最短の振られ方だった。

 

帰りの車中は二人とも無言で、おそらくその瞬間、日本で一番、気まずい空間だったのではないだろうか? 休憩も取らずに一気に南福岡まで車を走らせたヤマシタは彼女の寮の近くの交差点で彼女を下ろした。

 

『いい、友達でいましょうね。』

 

そう気遣うカズエの言葉はヤマシタの耳には入らない。

 

自宅に戻ってきたヤマシタを待っていたのはヒロシだった。

 

『おう、どうやった?』

『けちょんと振られたわ。』

『やっぱりねぇ。』

『やっぱりっちゃ、どうゆうことや?』

 

ヒロシは川棚温泉に行ったときにカズミに聞いていたらしい。

『これは、俺にとってもキツイ話なんやけど、まずケイコは彼氏がおるっちゅう話やったけど、けんちゃんのことを気に入っとったらしい。 つまり俺は最初から振られる運命やったんよ。 そんで、カズエはサトルちゃんのことを気に入っとったんやけど、あの日、やっちゃんを連れてきた事でサトルちゃんのことをあきらめたと。』

 

『お前、俺が振られるの分かっとって黙っとったな。』

 

『まあね、ほんでね、カズミはどうやら俺のことが好きみたいなんよねぇ。』

 

『あんまり嬉しそうやないな。』

 

『好みやないもん』

 

なるほど、男と女ってうまくいかないものだ。

 

結論。

香椎花園は行った人が振られる、カップルなら別れる、のではなくて恋の駆け引きが出来ない奴等が香椎花園に行きたがる。ということらしい。

 

そう言えば、火の山公園もカップルで行くと別れるって噂があったなぁ。

 

ヤマシタダブルパンチ

 

合掌

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