香椎花園の入り口に着くと、そこにはヒロシのお目当てのケイコと、ヤマシタが気になっていたカズエ、そして何故かカズミも来ていた。 3人の女の子達はてっきり3対3のグループデートだと思ってたらしく、女連れのヤマシタを怪訝そうに見ている。 けんちゃんは、慌てて3人に説明した。
『あ、こちらはサトルちゃんの彼女のやっちゃん。』
カズエは、初めましてと挨拶しながらヤマシタの方を見ながら
『サトルくん、彼女おったんやね?』 と言った。
ヤマシタは聞こえない振りをし、空を見上げた。 大丈夫、俺は悪くない。 彼女がおるかどうかは聞かれてないし、おらん、とも言ってない。 隣に立つヤスコの視線を感じるがそちらを見ないようにしていた。 一方のヒロシは我関せずで、ケイコに近づき中へ入ろうと促している。 7人は香椎花園の中に入った。
ヤスコはアトラクションの類が苦手だった。 だから、自分は待ってるからみんなで乗っておいで、と言ってくれたがヤマシタはヤスコと二人で下で待つことにした。 ジェットコースターに乗り込む5人を見送ったあと、ヤスコがヤマシタに尋ねた。
『あの子、サトルちゃんのこと、彼女がおらんっち思いよったんやね?』
『ああ、おるともおらんとも言わんやったしね。でもこれでおるっち分かったやろ。』
『ねえ、あーゆー子、好きやろ?』
どうして女性というのはこうゆう時の勘が鋭いのだろう? どうして男性というのはこうゆう不意打ちのときに動揺を隠せないのだろう?
ヤマシタはあからさまにどぎまぎし、そんなことないと答えたがヤスコは信じてなかった。
やがて時計の針は12時を差した。ヤマシタは木陰を探しレジャーシートを敷いた。 ヤスコは今朝、早起きして6人分の弁当を作っていた。 カズミが来ることが計算外だったが、まあ7人で分けても十分な量だった。 準備が整い他の5人を呼びに行く。
『おおい、メシにしようぜ。』
弁当を見たけんちゃんはとても喜び、ヤスコを褒めちぎった。
『やっちゃん、すごいねぇ。 サトルちゃんの奥さんみたいやねぇ。』
ああ、けんちゃん。それはね、余計な一言って言うんだよ。 ヤマシタは複雑な心境でけんちゃんを見つめていた。 7人はレジャーシートの上に車座になり弁当を食べ始めた。 さあ、ヒロシの作戦を開始しなければならない。 ヤマシタとけんちゃんはヒロシを褒める体勢になった。 ところが、二人がヒロシのいいところをケイコに伝えようとする前にケイコが口を開いた。
『やっちゃんってサトル君と同い年なんですか?』
『そうよ。』
『こんなお弁当とか作ってくれてありがとうございます。 大変だったでしょ?』
『ううん、私、作るの好きだから。』
『でも、本当に夫婦みたい。お二人、お似合いですよ。』
ヤスコは褒められまんざらでもない顔をしている。一方のヤマシタは普段のおしゃべりが陰を潜め黙りこくってしまった。 ヒロシの作戦によると、ここでヒロシを褒めちぎって、とどめは観覧車に乗る予定だ。 ヤマシタは話題を変えようとした。
『ヒロシはさ、背が小さいけど元バレー部でさ、すごい上手いんよ。』
『そうそう。サトルちゃんとヒロシは同じバレーボールのサークルで今年の学際のバレー大会に出るんよね?』
3人の女の子は、この話題には食いつかなかった。 しびれを切らしたヒロシがヤマシタに目で合図をして来た。 もっと褒めろと。 ヤマシタはヒロシのいいところを思いつかなかった。だが、なんとかひねり出したエピソードはとんでもないものだった。
『ヒロシは洗濯機のない生活をしよるんよ。でもさ、こいつはすごいよ。 ほとんどの洋服を洗濯せずに部屋の片隅に重ねて置いとるんよね。 そんで出かける前に匂いをかいで、臭くないヤツを着て行くんよ。 すごいやろ? 犬みたいやろ?』
え~、きちゃな~い! 3人の女の子はまるで引き潮のようにヒロシから離れた。 ヒロシは顔を真っ赤にし必死で否定した。
『今日のは、ちゃんと洗っとるよ~。』
今度はけんちゃんがヒロシを褒める。
『ヒロシはさ歌が上手いんよ。 ほんで、踊りも上手いんよね。 更に守備範囲が広いんよ。こないだも香椎駅の近くのスナックで知らないおばちゃんとバラードを歌いながらチークダンス踊りよったんよ。60過ぎくらいのおばちゃんのオケツを触りながら踊る姿は、すごかったよ~。』
『ちょっと、けんちゃんもサトルちゃんも俺のこと貶してない?』
『いや、ほら、万人に好かれるいい奴ってことやろ?』
『犬みたいに愛くるしいって事やろ?』
逆効果だったみたいだ。 3人の女の子は笑ってはいるがドン引きしている。
ケイコが話題を変えようとこんなことを言い出した。
『ねぇねぇ、知っとる?香椎花園の観覧車で告白した人って結ばれんらしいよ。』
隣に座るヒロシの動きが止まった。 箸でウィンナーを掴んだままピタリと静止してしまった。
『そ、そ、そうなん?』
どうするヒロシ? 作戦は続行するのか?
ツヅク
合掌