457発目 恋の駆け引きの話。第1話


 

 

ライナーノーツ



 

相談があるといって呼び出されたのは

深夜12時を過ぎていた。

 

アルバイトを終え自宅で風呂に入り

テレビを観ていた。

部屋の隅に置いためったに鳴らない

電話が鳴っている。

 

少々ぶっきらぼうな声で電話に出ると

相手はいきなりこう言った。

 

『完璧なプランを描いた。すぐに

来てくれ。お前の助けが必要だ。』と。

 

マイペースなヤマシタはそれでも

急ごうとせず、ゆっくりと歩いて

その友人宅へ向かう。

 

友人の部屋に着くと他にも

1人別の友人が呼ばれていた。

 

だまって部屋に入り、二人に

目で挨拶を済ませたヤマシタは

まず、テーブルに置いていた

缶ビールに手を伸ばし

煙草に火をつけた。

 

コツンと形式だけの乾杯を

済ませた後、おっくうそうに

ヤマシタは尋ねた。

 

『で?』

 

ヒロシは興奮気味に話し出す。

 

『香椎花園に観覧車があるやろ?

もうね、あれしかないなと。

あそこのてっぺんで言おうと。

ね?けんちゃん。』

 

けんちゃんと呼ばれた男は

色黒で歯は白く、笑顔の

似合う男前だ。

ヤマシタと同じ建築学科の学生で

ヤマシタの紹介でヒロシとも

仲良くなっている。

 

『まずさ、けんちゃんにお願いするのは

カズエに電話してもらって、香椎花園に

誘ってもらうんよ。そんで、俺と

けんちゃんとサトルちゃんと3人で

向こうは、そうやねカズミがいいかな?

サトルちゃんはカズミの相手してよ。』

 

さかのぼること1ヶ月前。

3人はヤマシタの地元の友達に

頼まれS女子短大の女の子と

コンパをした。

ヤマシタにもけんちゃんにも

彼女がいたから、そのコンパの

目的はもっぱらヒロシの

お相手探しのコンパだった。

 

ヒロシはそこにきていたケイコに

一目ぼれした。

酔っていた二人は、軽々しく

応援するよと言ったもんだから

こうしてヒロシのデートに

参加する羽目になっている。

 

『いつや?』

 

『できれば今度の土曜。』

 

『土曜はダメや。ヤスコが来る。』

 

ヤスコとはヤマシタの彼女で

小倉に住んでいるため月に

1回しか会えない。

 

今度の土曜日はその遠距離恋愛中の

ヤスコが泊りに来る日だ。

 

『あちゃあ、マジで?』

 

『そしたら、サトルちゃんは

ヤッちゃんを連れて行けば

いいやん。』

 

『おお、けんちゃん。ナイス!

そうやん、そうしようや。』

 

『ヤスコに聞いてみらんと

なんとも言えんのう。

ま、いいや。ほんで?

どういう段取りよ?

完璧なプランっちゃなんよ?』

 

ヒロシがケイコをモノにするために

考え付いたプランは、実に

オーソドックスなプランだった。

 

まず、けんちゃんが女の子を

呼び出す。しばらくは

6人でわいわいやる。

その際に、ヤマシタとけんちゃんは

ヒロシが如何にいい男であるか

をケイコに吹き込む。

そしてクライマックスの

観覧車てっぺんで告白する。

 

たったコレだけのことだ。

 

『お前、そんな中学生でも

思いつきそうな方法で

こんな夜中に呼び出したんか?』

 

ヤマシタは少し不機嫌になる。

 

だがヒロシはお構いなしだ。

 

『いや、結局さ、あれやこれやと

策を練ると却って良くないことに

気付いたんよ。

策士策におぼれるって

知っとうやろ?

ね?協力してくれるやろ?

約束したもんね?』

 

しぶしぶヤマシタは了承した。

 

『たださあ・・・』

 

けんちゃんが浮かない顔をしている。

 

『どした?』

 

『香椎花園ってカップルで行くと

別れるって噂があるやん?

そんなとこで告白して

うまくいくやろか?』

 

『大丈夫っちゃ、けんちゃん。

そんなん都市伝説よ。』

 

『お前、そんなんゆうて

俺とヤスコが別れたら

どうしてくれるとや?』

 

『そんときはサトルちゃんは

別の女、作ればいいやん!』

 

『お前、そんな右から左に

ぽんぽん女とっかえひっかえ

できるか!』

 

『まあさ。とにかく土曜日は

よろしくね。けんちゃん、

ちゃんと電話しとってね。』

 

翌日のお昼ごろ、教室でけんちゃんが

ヤマシタに近づいてきた。

 

『サトルちゃん、こっちの

段取りはOKよ。やっちゃんは

何て?』

 

『ああ、なんか面白そうやけ

行きたいっち、言いよった。』

 

『じゃ、楽しみやね。』

 

『それはそうとさ、何で

カズエなん?けんちゃんが

カズエを気に行っとるん?』

 

『いや、そうじゃなくて

ケイコとカズエが仲良しらしいんよ。

ほんで、場合によっては

カズエにも協力してもらおうと。』

 

なるほど。ヤマシタは考えた。

実はヤマシタはヤスコという

彼女がいるにもかかわらず

カズエのことを気に入っていたのだ。

 

う~ん。彼女がおることは

カズエにはばれたくなかったな。

とヨコシマなことを考える

ヤマシタの頭はその時既に

ヒロシのことなんかは

どうでも良くなっていて

カズエとヤスコとの問題を

どう対処するかでいっぱいだった。

 

ツヅク

 

合掌

 

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