432発目 油断する話。


サカナ



妻と息子が会話をしていた。

私は魚釣りをした経験がないので

どうやら妻に聞いているようだ。

 

妻は息子にこう説明した。

 

『朝一番とか雨の日とかは

お魚が油断しているから

捕まりやすいのよ。』

 

なるほど。

 

魚って油断するのか。

 

で、想像してみた。

 

 

 

仕事を終え、自宅の最寄り駅で

電車を降りたサカナは暗い道を

自宅マンションに向かって

歩いていた。

ふと、今日の昼間、職場の上司と

交わした会話を思い出す。

 

サカナの仕事はその特殊性から

普段は普通の会社員として

過ごすことでカモフラージュしていた。

サカナの本業は政府関連の仕事で

詳細が他人に知れることはもちろん

仲間同士でも知らされてない。

 

例えばある日、特別な方法でサカナに

連絡が入ると、指定された日時に

指定された場所へ赴き、指定された

ターゲットに対して引き金を引く。

たったそれだけのことだが、そもそも

そのミッション自体が非合法のため

指令が来ること自体が少ない。

 

サカナ自身も自分の本業が

何なのか分からなくなることも

しばしばだ。

 

ヘタをすると2年以上指令が

ない日々が続くこともある。

 

だからある意味サカナの仕事は

『待つこと』といっても過言ではない。

 

カモフラージュとして政府が

指定してきた企業は釣具関連の

卸売り企業だった。

 

サカナはそこに嘱託社員として

もぐりこみ、第3営業部の事務員として

目立たずに暮らしていた。

 

嘱託社員という立場はサカナにとって

好都合だった。

 

決まった時間に出社し決まった時間に

帰宅する。

もう何年もその規則正しい生活を

続けていた。

残業も休日出勤もないサカナは

普段、触れ合うのは自社の社員だけで

たまに会話するのも営業部長くらいだ。

 

同僚はサカナに対して無口な人という

印象があるだけで、飲み会にも誘わないし

たまに歓送迎会に出席するくらいで

とにかく目立たない生活だった。

 

思い出してたのはその営業部長との

会話だった。

 

今日の昼ごろ、部長に昼食に

誘われた。

 

断る理由もなかったので

一緒に社員食堂へ向かった。

 

テーブルに座ると部長は

こう切り出した。

 

『サカナ君はうちに来て

もう何年になるかな?』

 

『今年の5月で丸3年です。』

 

『そうか。もう3年も経つのか。

どうだね、君は真面目でミスも少ない。

ここらで正社員になる気はないかね?

よければ私から人事部へ推薦するが。』

 

サカナは困った。

正社員になると様々な人と

触れ合うことになる。

さらには本業の指令が出たときに

休んだりしにくくなるのではないか?

 

『部長、大変申し訳ありませんが・・』

 

サカナが言うのをさえぎるように

部長は

 

『まあ、君にとっても悪い話じゃない、

ゆっくり考えてみてくれよ。』

 

と言った。

 

『ところで君は釣りには興味は

ないのかい?休みの日は

何をしているの?』

 

『はあ、この会社に勤めていて

こう言うのはなんですが、

私は釣りよりもランニングとか

ウォーキングとかの方が

性に合ってまして。』

 

『はっはっは。サカナはやっぱり

陸に上がりたがってるのか!』

 

サカナは誰かに必要とされることに

喜びを感じていた。

 

自然と顔もほころび、思い出し笑いも

もれていた。

 

はっと気がついたときには

遅かった。

 

普段ならこんな失態は犯さない。

常に尾行には気をつけているが

いつの間にか背後に気配を感じた。

 

サカナは後ろを振り返らずに

背中に全神経を集中させた。

 

全部で5人。うち二人は銃を携帯している。

 

だが時既に遅しだった。

 

右後方から投げられた網に

全身を包まれ捕らえられた。

 

同時に麻酔薬のようなものを

打たれた。

 

薄れ行く意識の中で

サカナは自分の油断を恨んだ。

 

 

え~っと。

 

魚が油断するって

こういうことかな?

 

ナガナガトゴメンネ

 

合掌

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