温泉が好きで家族で
よく入りに行く。
温泉の効能というよりは
広い大きな浴槽が好きで
さらに、露天風呂があると
尚良い。
そしてもう一つ。
必ずほしい設備はサウナだ。
私は息子と、奥様は娘と
男女それぞれに分かれて
入浴する。
息子は一人で待っているのが
寂しいらしく、私がサウナに行くと
ちょいちょい覗きに来ては
『お父さん、まだ?』
と聞いてくる。
だから落ち着いて入れないのが
唯一の不満だ。
だが、それを差し引いても
余りあるだけの満足度は
得られる。
ある日、またいつものように
お出かけの帰り道に見つけた
スーパー銭湯に目をつけ
ひとっ風呂浴びて帰ろうと
言う事になった。
ただ、いつもと違うのが
奥様がレディースデイだったので
私が息子と娘を連れて
入らなければならない。
まだ4歳だから男風呂でも
大丈夫だろう。
でもね。
世の中には変な人も
いるから、お股を広げたり
しないようにね。
と重々言い聞かせて
風呂へ向かう。
ところが入るや否や
娘は床に直接座ったり
お股を広げたりする。
イライラ。
『ほら、何回言ったら
分かるんか?
ダメっち言いよるやろが。』
私がたしなめると
『あ、そうか』
と素直に聞き入れる。
だが、今度はものの5分も
しないうちに洗い場を
息子と二人で走り出す。
『走るな!
こけたらどうするんか!』
二人はシュンとなって
おとなしくなる。
イライライラ。
シャンプーをするよ。
ほら、こっち向いて。
こっち向けって。
こっち向かんか!
イライライライラ。
いや、サトル。
我慢だ。
今日は子供二人だから
私はサウナを誰にも
ジャマされずに入れる。
『お父さんはサウナに
行って来るから、お前達は
おとなしく露天風呂のテレビでも
観てなさい。』
幸か不幸か。
露天風呂にはテレビが
設置してあり、そこでは
ちょうどチビまるこちゃんが
放映されていた。
念願のサウナ。
今日は15分以上いったろうかいな?
私はイライラを解消すべく
サウナに向かった。
サウナには既に先客が
二人いた。
一人が太った人で
もう一人が、がりがりに
やせた男だった。
私は勝手にその二人を
心の中でだけ
ヤセタンとコロンタン
と呼ぶ事にした。
私は二人のちょうど間に
腰掛ける。
しばらく沈黙が続く。
ふと、ヤセタンがコロンタン
に向かって
『おい、あれあのあと
どうしたの?』
と尋ねた。
ああ、知り合いだったのね。
『ああ、あの後ね。
あの後が傑作でさぁ。』
コロンタンはさもおかしそうに
笑いをかみ殺している。
『あ、ちょっと待って』
ヤセタンはコロンタンが
しゃべろうとするのに
待ったのポーズで
サウナ室から出て行った。
しばらくして戻ってきた
ヤセタンは
『ごめんごめん、で?』
と話の続きを促した。
私も続きが早く聞きたかった。
『いやぁ、あの後さ、
あ、ちょっと待って。』
今度はコロンタンが
出て行った。
コロンタンが戻ってきて
今度はヤセタンの近くに座る。
『タカハシさんとミウラさんにさ、
こう肩を組むようにしてさ。』
コロンタンは話の続きを
語りだした。
『あ、ちょっと待って』
何やねん!
おいコラ、ヤセタン。
さっきから2分も経ってないぞ!
ヤセタンは出て行った。
しばらくして戻ってきた。
『で、で?』
『ああ、こうさ、肩をさ
組んでさ、二人のほっぺに
顔を近づけて何て言ったと
思う?』
『え~!なんかやらしいこと?
セクハラ的なことを言ったんじゃ
ないの?』
『いや、それが傑作でさ、
タカハシさんの方にむかってさ』
『ちょっと待って』
何だよヤセタン!またかよ!
『そのタカハシさんって
あのタカハシさん?』
おお、出て行くんと違うんかい!
よしよし
『そうだよ!あのタカハシさんだよ。
でさ、タカハシさんにさ
お小遣いほしい?って聞いたのさ。』
『まじで~?』
『うん、そんでさ、
あっ、ちょっと待って』
も~~~ういい。
お前等外で話せ。
もう出たり入ったり!
『あ、俺ももう出るわ。』
そして二人は出て行った。
私のイライラは頂点に
達していた。
ただでさえサウナの熱気で
頭が熱いのに、加えて
イライラだの怒りだので
頭から湯気が出るんじゃ
ないかと思えるほどだった。
目標の15分を過ぎ、
なんとか18分まで耐えて
私はサウナ室を後にした。
水風呂に向かうと
先ほどの二人はまだ
入っていた。
『いや~、マジで
やばいよそれ。
ミウラさんもおこったっしょ?』
ああ、もうオチは言った後やん!
タカハシさんどうなったん?
も~~~~う。
イライライライライラ
合掌