気に入ってる子との初デート
前日にやるべきことは
3つある。
まず、銀行に行って
軍資金をおろす。
やや、下心がある場合を
除くと2万円もあれば
良いだろう。
二つ目は着ていく服を
決める。
いつも通りでよい。
気取らなくて良い。
普段の自分を出すんだ、
と自分に言い聞かせる。
3つ目は当日のシミュレーションだ。
待ち合わせ場所は
駅のコンコース。
彼女が見つけやすいように
待ち合わせの時間の
15分前には到着する。
柱にもたれかかり
文庫本を読む。
「あ、本が好きなんだ。
知的ね。」
と思われるためのツールだ。
随分遠くに彼女の姿を
発見しても、気づかない
振りをする。
「あ、今来たばっかし」
と言うためだ。
彼女は時間通りに
やってくる。
右手を軽く上げて
やあ、と照れながら
挨拶を交わす。
お昼ごはんを食べてから
映画を観るプランだから
どこで食べるかを
決めるべきだ。
軽めで良いだろう。
無難なトコでパスタだな。
よし、ピエトロにしよう。
ファミリーセットだと
2種類のパスタが選べるから
分けっこして食べよう。
食べ終わったら、彼女に
「トイレに行かなくていい?」
とさりげなく聞き、化粧直しの
時間を与えよう。
彼女がトイレに行ってる間に
会計は済ませておく。
これはポイントが高いだろうな。
そこから映画館までの
ほんの数百メートルは
出来れば手をつなごう。
彼女がバッグを左の肩に
下げているのなら右手を、
そうじゃないなら左手を。
ああ、でもやっぱ、
腕を組むほうがいいかな?
付き合ってるわけじゃないから
腕は組まないか。
よし。手をつなぐ。それで行こう。
映画を観た後は、
喫茶店でコーヒーを飲もう。
ここで、コーヒーの薀蓄だ。
えーーっと。
ないな。
コーヒーの薀蓄はひとつも無い。
「ブラジルかな?スリランカかな?」
とか調子に乗って言って、
「いえ、お客様。
これはハワイのコナコーヒーです。」
って言われたら恥ずかしいもんな。
「あ~、粉コーヒー?インスタント?」
ってうっかり言ってしまって
なんじゃこいつ?って
思われたらいかんしな。
「ボケや~ん!」
で、笑ってくれるか?
いや、無理そうだ。
あ、そうだ。
映画の感想みたいなことを
言い合おう。
よし、それで行こう。
いかん、ドキドキしてきた。
それから、買い物に付き合って
もらおう。
マフラーをいくつか見て、
「やっぱ、今日はいいや。
お金も無いし。気に入ったのが
無かったから。」
って言おう。
もしかしたらクリスマスに
マフラーもらえるかも。
うんうん。
いいぞいいぞ。
さあ、ココからが大事だ。
おそらく時間は18時くらいだろう。
「今日は何時までに帰れば
いいと?」
って聞く。すると彼女が
パターン1
「そんなに遅くならなければ・・」
パターン2
「今夜は帰りたくないな。」
おお!
2がいいな。
いやいや。それはないか。
じゃ、今回は晩飯 食って
帰すか。そこから先は
次の機会だな。
あ、もう11時か。
寝なきゃ。
プルルルルルル。
ん?
こんな時間に電話?
誰だ?
「はいもしもし。」
「あ、サトルちゃん?
俺、俺、ヒロシ。」
「おお、どうした?
俺、明日デートやけ
早く寝たいんよ。」
「ああ、カズエちゃんとやろ?」
「何で知っとん!!」
「いや、今ケイコちゃんから
電話がかかって来て、
明日のサトルちゃんと
カズエちゃんのデートに
一緒に行こうって誘われたんよ。」
「いやいや、だめだめ。
いまシミュレーション終わったトコなんよ。
今更プラン変更なんかできんよ。」
「いいやん。じゃ明日ねぇ。」
『っていう状況になると困るので
あまり詳細にこだわったプランを
立てると契約にならんぞ。
どんな状況にも対応できるのが
一流の営業マンの条件だぞ。』
『支店長、たとえ話が長すぎて
意味が分からなくなりました。』
アッソウ。
合掌