377発目 どこ吹く風の話。


ライナーノーツ

私は福岡の大学を卒業している。

 

工学部の建築学科だ。

 

当時の建築学科には生徒が

120名いた。

 

120名の内訳は一般入試が

100名弱。残りは系列の高校の

推薦入学だ。

 

系列の高校と言うのは

二つあり、そのどちらもが

スポーツに力を入れている。

 

野球、サッカー、ラグビーは

全国優勝を何度もしているし

プロチームに何人も輩出している。

 

では、学力はというと

首をひねりたくなるが、

運動能力に長けているので

大学の名前を世に知らしめる

広告塔の役割も担っている。

 

大学4年次になると

5つのコースに別れ

研究室に入る事になる。

 

意匠、計画、環境、建築学

そして構造だ。

 

私は構造の研究室に在籍していた。

 

構造の研究室も2種類あり、

鉄筋コンクリートと鉄骨造を

研究する。

 

私の専門は鉄筋コンクリートで

来る日も来る日も実験室で

コンクリートを作ったり壊したり

を繰り返していた。

 

構造計算と言うのは

数学、特に微分積分が

得意な奴等が集まる。

 

もしくは締め切りぎりぎりまで

研究室をどこにするかを

決められなくて、入ってきた

奴等もいる。

 

なぜそうなるか?

 

一番人気が無いからだ。

 

私は後者のほうで、

締め切り日時を失念していた。

 

で、自動的に定員割れしている

構造の研究室に入れられた。

 

幸い、数学は得意科目であったし

微分積分は得意中の得意

だったので困らなかった。

 

研究室の仲間にも恵まれ

楽しい日々を送っていた。

 

が、納得がいかないことが

ひとつだけあった。

 

トウ君という学生のことだ。

 

彼に出会ってから私は

推薦入試という制度に

疑問を持ち出した。

 

彼は一言では言えないほど

とんちんかんな奴だった。

 

研究室に入って間もない頃、

当時付き合ってた彼女の

誕生日も近いと言うことで

当日は早く帰ると他のメンバーに

お願いしていた。

 

みんなは快く承知してくれた。

 

話題は私が彼女とその日に

どのように過ごすかに及んだ。

 

私は隠すことでもないと判断し

正直に告白した。

 

『ま、金も無いしプレゼントを

買って自宅でささやかな

パーティーを二人でするよ。』

 

そうすると、彼女のいないトウ君は

うらやましそうに色々尋ねてきた。

 

『ねぇねぇ、プレゼントは

何を買ったと?』

 

『ああ、前から欲しがっていた

財布だよ。』

 

『いくらくらい?ねぇ、

いくらくらいのヤツを買うと?』

 

『1万円くらいだよ。』

 

『ケーキは?ケーキは?』

 

そんなことを聞いてどうすんだ?

と思ったが隠すことでもないので

私は正直に答えた。

 

『彼女はプリンに目が無いんで

ケーキじゃなくてプリンを予約したんだ。』

 

すると彼の口から思ってもみない

言葉が飛び出した。

 

『あっはっはっはっは。

ヤマシタ君、何言いよると~!』

 

は?

 

今のどこが面白かったんだろう?

 

『ねぇねぇ、みんな。

ヤマシタ君がおかしなこと

言いよるよ。』

 

そこにいたのは研究室の

一部のメンバー3人だったが

3人ともが興味を示して

どうしたどうした?と

近寄ってきた。

 

『あっひゃっひゃっひゃ。

あ~おかしい。

ヤマシタ君が、ヤマシタ君が。』

 

『どうしたと?トウ君?

何がおかしいと?』

 

『ヤマシタ君がおかしなことを!』

 

『いや、俺、おかしなこと

言ってないけどなぁ。』

 

『だってプリンに目なんて無いよ!

あ!もしかして底についた

パキンって折るトコを目と

思っとったと?』

 

はぁ?

 

いったい、どうゆう勘違いだ?

 

しかもプッチンプリンって

決め付けとうし。

 

『いや、トウ君。俺はね

目が無いって言ったんよ。』

 

『そりゃそうよ。

プリンに目があるわけ無いやん!』

 

 

彼は推薦入試で大学に

入学したクチだ。

だが、運動神経は悪い。

大学にとって広告塔にも

ならなければコレと言った

活躍もしない。

 

何故、こんな人を入学させるのか?

一生懸命  受験勉強して

合格した我々の気持ちを

踏みにじるようなバカだ。

 

『いや、トウ君。

目が無いってのは

すごく好きって意味だよ。』

 

ピタリと笑いを止めたトウ君は

私に向き直りこう言った。

 

『ヤマシタ君。その手には

乗らんよ!』

 

いやいや。

 

どの手だよ!

 

『トウ君には何を言っても

どこ吹く風だね。』

 

『どっこも吹かんよ!』

 

もう末期症状だな。

 

これから半年後、彼は

『被害妄想事件』

を起こす事になる。

 

ツカレルオトコ

 

合掌

 

 

被害妄想事件の詳細は

こちら ↓

185発目 聞き間違いの話

 

 

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