375発目 見える世界の話。


ライナーノーツ

私は極度の近視の上

乱視でもある。

 

26歳ごろから視力が落ち

メガネをかけだした。

 

もともとがアレルギー体質で

肌が弱いだけだと思っていた。

 

ところが、コンタクトレンズにも

アレルギー反応が出ることが

分かった。

 

というのも、ある年の夏に

子供たちをプールに連れていくのに

メガネをかけたままプールに

入るのに不便を感じたため

使い捨てのコンタクトレンズを

買に行ったのだ。

 

ワンシーズンのそれも

わずか数日間しかレンズを

装着してなかったにも

かかわらずまぶたの裏に

アレルギー反応が出た。

 

タンパク質が大量に分泌され

目がシバシバしてくるのだ。

 

ああ、私にはコンタクトレンズが

向いてないんだ、と悲観し

それ以来はつけてない。

 

しかし、今回、北海道に来て

またもやコンタクトレンズを

付けようとしたんだ。

実に5年ぶりくらいだ。

 

何故かって?

 

スキーをするからだ。

 

先日、スキーの時のための

ゴーグルを買いに行った。

 

メガネをつけたままで

装着できるゴーグルを探したが

見つからなかった。

 

だから、仕方なくコンタクトを

買ったのだ。

 

結果はというと、目の調子は

すごく良く、視界も良好で

まるで裸眼に戻ったような

感覚だった。

 

ただ、裸眼の頃の記憶なんか

とっくになくなっているので

厳密にいえば、

 

『初めて見えるようになった。』

 

喜びだった。

 

 

そう、クララが立ったのと

同じくらいのテンションで

 

『見えた、見えた。

サトルが見えた。』

 

とはしゃいでしまった。

 

が、

 

 

幸せは長くは続かない。

 

 

スキーが終わり、疲れた体を

ほぐそうと、私の家族は

温泉へ向かう。

 

いつものように私は息子と

男湯に向かう。

 

洋服を脱ぎ、裸になった私の

手を息子が握る。

 

『今日はお父さんは見えるから

手をつながなくていいよ。』

 

『あ、そっか!コンタクト

やもんね!』

 

いつもは息子に手を

引いてもらって浴場に

向かうのだ。

 

そしていつものように

入り口の脇にある体重計に乗り、

お互いの体重を確認する。

 

いつもなら息子にメーターを

読んでもらうのだが今日は違う。

だって、見えるんですもん!

 

そして浴場に入る。

 

うわ~!

 

これが温泉かぁ。

 

想像していたよりずっと

中は広いんだなぁ。

 

今まではぼやっとした

世界だったが、温泉って

こんなにはっきりと

周囲が見えるのね。

湯気の蒸気の一粒一粒が

見えるようだよ。

 

と、ここまでは見える喜び、

つまり幸せモードだった。

 

私は知らなかった。

 

温泉の男湯が、つまり

目に見える範囲に

こんなにたくさんの

見知らぬおっさんたちの

股間があるなんて。

 

今までは見えてなかったとはいえ

こんなに大量のおっさんたちの

毛むくじゃらの股間を

見ながらお湯につかってたのか。

 

なんだか吐き気がしてきた。

 

『だめだ。お父さんもう

限界だよ。出よう。』

 

息子を促し温泉を出る。

 

ふと、鏡に映った自分の

裸に気が付いた。

 

 

ガクーーーーン。

 

ああ、俺の股間って

こんなに毛むくじゃらだったの?

 

見えるって

見えるって、

こんなに

 

ツライノネ

 

合掌

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