373発目 お団子の話。


ボン中

ナオキは重度のシンナー中毒だった。

 

トルエンが手に入らないときは

ニスやセメダイン、ボンド、

挙句の果ては除光液まで

使うようになった。

 

学校に来るとき、学校から

帰るとき、昼休み、掃除の時間。

 

ナオキは常に片手に

ビニール袋を持ち

スーハースーハー

やっていた。

 

ボク等はナオキのことを

ボン中と呼んでいた。

 

ボンド中毒の略だ。

 

ある日の下校途中。

ナオキは相変わらず

ボジレていた。

 

ボジレるとはシンナーで

ふらふらになっている状態の

ことを言う。

 

帰り道ではいつもの場所で

日向ぼっこをする猫を

可愛がって帰るのが

日課となっていて

その日も猫の近くに

しゃがみこんだ。

 

いつもならボクの弁当の

あまりモノや、パンの

かけらなどを与えるのだが

その日は何もなかった。

 

ふと、ナオキがポケットから

新品のビニールを出した。

 

ビニールの中には茶色い

粘土のようなものが

入っていた。

 

『何?それ。』

 

と尋ねる僕に

 

『わからん、親父から

預かってくれって言われた。

お団子かな?』

 

『じゃ、それ食わせるか?』

 

猫はお団子に興味を示し

欲しがっていた。

 

『ちょっとならいいか』

 

と猫に分けてやる。

 

猫はおいしそうに食べていた。

 

 

次の日、いつもの場所に

猫はいなかった。

代わりに警察がたくさん来ていた。

 

 

夕方のニュースを見て

驚いた。

 

近所の人が、朝方

猫にエサをやろうと思ったら

泡を吹いて死んでいた。

 

誰かのいたずらだろうと

警察に通報し、駆けつけた警察官が

そこに散らばっていたお団子を

調べたところ、それが

違法薬物だということが

判明したとのことだった。

 

ガンジャと呼ばれる

大麻の加工品の一種で

それを吸引するとぶっ飛ぶそうだ。

 

それから数日後、

ナオキのお父さんは逮捕された。

 

翌週、登校してきたナオキは

ボクらにこう言った。

 

『俺、シンナーやめる。』

 

『どしたん?』

 

『親子で薬物中毒だと

カッコわるいやろ?』

 

『まあ、子供だけでも

カッコわるいけどね。』

 

『あのあと、あのお団子ね、

家の金魚にやったんよ。』

 

ナオキは泣き出した。

 

『俺、あんなに可愛がってたのに。』

 

最後のほうは言葉にならなかった。

 

ナオキが可愛がっていた金魚は

大量のガンジャを摂取し

一瞬で死んでしまった。

 

人が悪の道から更正しようと

した場合、犠牲が出るもんだと

このときに学んだ。

 

 

 

中学の卒業式を間近に控えた

ある冬の日、ナオキは

ボク等に別れを告げた。

 

『引っ越す事になった。』

 

『え~!なんで?』

 

『お母さんが覚醒剤所持で

捕まったけ、お姉ちゃんと

親戚のおる北海道に

行く事になった。』

 

家族全員ヤク中やん!

 

お別れのしるしにと

ナオキはボク等に

お団子をくれた。

 

全く食べる気がしなかった。

 

カクセイザイハヤメヨウ

 

合掌

 

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