356発目 思ったより少ない話。④


ライナーノーツ

駐車場に人だかりができている。

私たちが車を止めた場所だ。

 

吸いかけのタバコを投げ捨て

駆け寄った。

 

テツがうなだれている。

 

『どうした?』

 

尋ねる私の方を見ようともせずに

テツは私の車を指さした。

 

私は恐る恐る自分の車を

見る。

 

私のローレルはバンパーが外れ

ガクンと顎が外れたように

なっていた。

 

『あらら、どうしたん?これ』

 

私はテツを気遣い、あえて

ひょうひょうと尋ねた。

 

『ごめん、キンちゃんの車で

ぶつけてしまった。』

 

またかよ!

 

そしてキンちゃんの車、

これで2回連続やん!

 

しかし。

 

しかし、思った。

 

あの数か月前の出来事が

あるので、ここで私が

腹を立てると、何かが

壊れていくんじゃないかと。

 

私は腹が立ったが我慢をした。

 

そして壊れたバンパーを

ガムテープで張り付け

みんなにこう言った。

 

『さあ、気を取り直して

出発しようよ!』

 

うなだれるテツを慰めながら

全員は車に乗り込んだ。

 

キンちゃんも私も自分で

自分の車を運転することにした。

 

日光東照宮についた我々は

東照宮の様々な文化物を

観光して回った。

 

実は意外と知られてないが

地名を冠さないただの『東照宮』

というのがここの正式名称だ。

 

みんなで、看板の説明を読みながら

『へぇ~』と言ってるうちに

なんだか雰囲気も和やかになってきた。

 

国宝級の建造物を眺めていると

私のザワついた心も幾分か

落ち着いてきた。

 

東照宮のさらに奥、北に進むと

二荒山神社というのがある。

 

そこに行き、全員でおみくじをひいた。

 

私はキンちゃんに近づき尋ねた。

 

『どう?交通のところ何て書いてる?』

『あかん、最悪や。』

キンちゃんが差し出した神籤を

のぞき込むと交通のところに

こう書いてあった。

 

「北は凶、行くな。ケガをする」

 

『うっわぁ。最悪やん!

どうする?このあとケガするんやない?』

 

『俺、運転が怖いわ。

あの車、何かに憑りつかれとる

んやないやろか?』

 

私は周囲を見回し、ほかのみんなが

聞いてないことを確認したうえで

キンちゃんに尋ねた。

 

『こないだの1件があるけ

弁償してくれって言いにくいやん?

でもさお前は2回目やけ

言ってもいいと思うんよね。

 

でもさ、そしたらキンだけ弁償して

俺に弁償せんっていうのも

不自然やろ?どうするやろか?』

 

『いやあ、俺はちょこっとやから

ええねんけどサトルのは

ボッコシ行っとるやん。

さすがにあれを無視できんやろ?

言いにくいんやったら俺から

言うたろか?』

 

『そうだな。お願いするかな?

俺からは言いにくいもんな。』

 

『金額聞かれたらどうする?』

 

『ま、さすがにそこは

気持ちでいいよ。

全額請求してぎくしゃくするのも

嫌やしね。』

 

誰かがそろそろ昼食にしようと

言い出した。

 

日光と言えばやはりお蕎麦だな。

よし、車で移動しようと

駐車場に行ってみた。

 

私の車からバンパーが

なくなっていた。

 

ツヅクノヨ

 

合掌

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