341発目 最初の話。


ウニ

北海道は魚介類がおいしいという

イメージがある人は少なくないだろう。

確かに不味くはないが、博多と

比較すると断然、博多の方が

魚は旨い。

 

ただし、魚偏のつかない海の幸は

圧倒的に北海道の方が旨いのも

事実だ。

 

例えば有名なところでいけば

蟹(カニ)や烏賊(イカ)、帆立(ホタテ)

などがそうだろう。

 

その中でも、私の大好物である

雲丹(ウニ)は絶品中の絶品だ。

 

もし、ウニが美味しいということを

発見した人に会う機会があるのなら

全力で感謝の言葉をささげるだろう。

そして、ウニを奢ってやるだろう。

 

で、そうゆう話をしていたら

やはり会社の同僚がこう言った。

 

『これを最初に食べた人って

すごいですよね』 と。

 

ココからは私の推論であるが

最初にウニを食べた人の様子を

物語にしてみた。

 

時は江戸時代。

海辺の村は人口80人程度の

小さな村だった。

平吉は小さな頃に両親を

亡くし、祖母に育てられた。

 

やがて祖母も亡くなり、食うに困った

平吉は盗みを働くようになった。

 

日常的に盗みを繰り返した

平吉だったが、小さな村ゆえ

やがては捕らえられることとなった。

 

全ての村人が集まる砂浜で

後ろ手に縄で縛られ正座を

させられた平吉は、同心に

懇願し、村人にも訴えた。

 

『もう二度と盗みはしません。

だから許してください。』

 

村人達は両親のいない平吉を

哀れに思い、許そうとした。

 

と、そこで村一番の金持ちの、

つまり平吉の盗みの被害に

最も多く遭った男が口を

開いた。

 

『何の罰も与えないのは

平吉の将来のためによくない。

 

だから、こうしないか?』

 

と村人全員を見回しながら

手に提げた籠から黒いものを

取り出した。

 

『これは、今朝、そこの岩場で

見つけたものだ。

黒くてとげがある。

触ると毒があるのか

指を刺してきて大怪我をした。

生き物であることは間違いない。

海の生物だ。』

 

金持ちの男が出したものは

村人の誰もが初めて見る

代物だった。

 

『平吉よ。お前に本当に

改心の気持ちがあるのなら

これをみんなの前で

食べて見せよ。』

 

一同はざわついた。

 

こんなもの死刑と同じじゃないか。

 

平吉は決心した。

 

『分かりました。でもトゲは

食べられません。

一度、殻を割って中身を

確認してもよいでしょうか?』

 

『好きにせい。』

 

平吉は適当な石でそれを

割ると中身を確認した。

 

金持ちの男も平吉も村人達も

その中身を見てより一層、慄いた。

 

中には黄色のような橙色のような

得体の知れぬ物体が入っていた。

 

意を決してその中身を口に運ぶ

平吉を一同は見守った。

きっと平吉は死ぬだろうと

誰もが思った。

 

金持ち男が平吉に歩み寄り

話しかけた。

 

『思い残すことはないか?

一つだけならお前の望みを

叶えてやろう。』

 

『では、出来れば醤油をください。』

 

オアトガヨロシイヨウデ

 

合掌

 

 

 

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