『ヤマシタさん。あれ。』
営業で外回りをしていたときのことだ。
のどが渇いたのでコンビニで
コーヒーを買い、歩道のところに
置いてあるバス停のベンチに
座ってコーヒーを飲んでいた。
隣に座る入社2年目の男の子が
私に話しかけてきた。
『どした?』
『いや、道の向こう側にですね・・』
彼の言う方に視線を移す。
目の前は片側3車線の国道で
向こう側と言っても20mくらい先だ。
『ん?何かあるか?』
『いや、あのお姉ちゃん。』
彼も目が悪く、私と同様に
メガネをかけている。
彼が示す方向には確かに
お姉ちゃんらしき人がいる。
しかし、お姉ちゃんかおばちゃんか
判断がつかない。
『どれ?』
『あの、向こう岸のベンチに
座ってる人ですよ。』
『ああ、あの人ね。
お姉ちゃんか?おばちゃんやないとや?』
『ああ、そうかぁ。
おばちゃんの可能性もありますね。』
『見える?俺は無理。
ぼやけとう。』
『ああ、ジブンも無理っすね。
ぼんやりしか見えません。』
『で、どうしたん?』
彼はじっくり10秒は沈黙した後、
こう言った。
『いや、パンツ見えそうじゃないっすか?』
おとこ【男】
人間の女ではない方。
女のパンツが見えるなら
どんな努力でもする哺乳類
確かにスカートの合間に見えそうな
パンツに関しては興味がある。
見えるなら見たい。
でもね、この距離でしかも
視力の悪い私たちには
仮に見えたとしても、それは
もはやパンツではなく
ちっちゃい布だろ?
『ああ、そうですね。
でもヤマシタさん。見たくないっすか?
ジブンちょっと近くまで行きます。』
言うが早いか彼は立ち上がって
車がビュンビュン行きかう中、
信号も横断歩道も無い車道を
ぱぱぱっと横切り中央分離帯に
行き着いた。
ちょうどその時、反対車線に
バスが到着し、ベンチの女性は
乗っていってしまった。
彼はとぼとぼと帰ってきて
心底残念そうにうなだれた。
しかし、君の行動力はすごいね。
仕事に生かせないものかね?
車に乗り、次の目的地へ向かう途中
彼は突然、
『ちょっと停めてください。』
と言った。
どうした、また、パンツか?
彼は車を降り、建物の中に
入っていった。
7階建てのオフィスビルだ。
しばらくして降りてきた彼は
手にパンフレットのようなものを
持っていた。
車に乗り込み私にそれを見せる。
『ヤマシタさんもどうっすか?』
彼が手にしていたのは
レーシック手術の案内だった。
すごい行動力だね。
マイッタ
合掌