横浜駅SF


大正4年にこの世に誕生した横浜駅は、100年以上たった今日にいたるまで一度も工事が終わったことがない。

 

このため、世間では「日本のサグラダファミリア」と呼ばれているそうだ。

 

もっとも、私が横浜に越してきて1年が経過しようとしているが、いまのところ横浜駅を「日本のサグラダファミリア」と呼んでいる人に一人も会ったことはないのだが。

 

ただ、そういわれてみれば随分前に出張で横浜に来たときはJR改札前のコンコースから東口にかけて工事をしていたし、その前に来たときは「みなとみらい線」の乗り入れ工事をやってた。 そして今は西口の北の方に駅ビルを建てている。

 

「日本のサグラダファミリア」という揶揄した表現は決して言い過ぎではない気がしてきた。

 

 

さて、今回紹介する作品 「横浜駅SF」 はネットで話題になった、と相鉄地下街のポスターで見かけた。 実際にネットで話題になってたかどうかは知らないが、横浜駅を題材にしているのなら、どれ、いっちょ読んでやろうか、という気にもなる。

 

まるで、柔道の達人が無謀にも自分に挑んできた若い相手に対し抱く感情に似ている。

 

「どれ、いっちょ揉んでやるか」

 

ともあれ、私はこの小説を手に取った。

 

ものがたりはザックリ説明すると、横浜駅が自己増殖を始めて日本列島を覆いつくした未来の日本が舞台になっている。 自己増殖を止めない横浜駅は、北海道や九州にも浸食しようとしているが、JR北日本やJR福岡と呼ばれるレジスタンス達が横浜駅の進入を阻んでいた。

 

主人公のヒロトは横浜駅の中、つまりエキナカで生活できずに外に排除された人たちで成すコミュニティで暮らしていた。横浜駅1415番出口の九十九段下と呼ばれるところだ。

 

横浜駅には「自動改札」と呼ばれるアンドロイドの様な番人がいる。 エキナカの住人は6歳になると多額のデポジットを支払って頭の中に「suica」を導入してもらう。 「自動改札」がsuicaを認証できなかった場合、その人は駅の外に強制退去させられる。

 

ある日、ヒロトは駅から強制退去された人を救った。 彼は助けてくれたお礼にと、ヒロトに「18きっぷ」を渡す。 これは頭にsuicaを導入されていなくても自動改札に認証される特別な装置だった。

 

男はヒロトに42番出口を目指せ、と告げ死んでしまう。

 

そこから、ヒロトの42番出口を目指す横浜駅エキナカの旅が始まるのだ。

 

エキナカの住人は建造物を人間が建てる、という感覚がなく、エスカレーターやエレベーターは「生える」という感覚を持っていたり、富士山がこの季節になるとエスカレーターで覆われて標高が4000mを超えてしまう、とか、およそ荒唐無稽と思われるストーリーが展開していくが、不思議と現代社会とのマッチングがなされている。

 

横浜駅が自分で勝手に増殖していく。 横浜駅の中を移動していたら甲府にたどり着いた。 関門海峡を連絡通路が伸びてくるのを必死で阻止しようと日夜戦うJR福岡の社員。

 

私自身は初めてSF小説を読んだのだが、ここまで妄想を膨らませて、一つの作品にしてしまうことに、単純に感動してしまった。

 

空想のお話が好きな人はぜひ読んで見て。

 

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