朱い夏の話。 



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ライナーノーツ





偶然は何回続くと偶然じゃなくなるのか?

 

彼女を初めて見たのは、今はもう無くなった九州銀行のカウンターだった。 当時、私には付き合っている人がいたし、その恋愛も順調だった。 にも関わらずその女性を見た瞬間に恋に落ちた。 とても綺麗な人でにこっと笑ったときに見える白い歯が印象的だった。 私は思い切って話しかけた。

『あなたのような綺麗な人は初めて見た。』 と。

 

彼女はにこりと笑って 『若いのにお上手ね』 と言った。

 

当時の私は大学生で彼女はOLだ。短大卒業して就職していたとしても間違いなく私よりは年上だろう。 加えて私自身に銀行に出向く用事がほとんど無かったため、彼女に会うことはその後しばらくなかった。 だからその初対面の衝撃も次第に薄れて行き、数ヶ月経ったころには忘れてしまっていた。

 

大学2年生になり自宅前の線路脇の道路が拡張工事に入った。 それまで県道だった道路が広くなり国道に変わった。 と言ってももともとここは国道3号線だったのだが。 その拡張工事の影響で九州銀行は移転してしまった。 これでもう彼女に会う手段はないな、とぼんやり思ったのを記憶している。

 

時は流れ大学3年生の冬。 私は自宅近くのスーパーでレジ打ちのバイトを始めていた。 ほとんどが昼間のパートのおばちゃんと交代し夕方から閉店までの勤務だったが、たまにおばちゃんに頼まれて昼間に入ることもあった。 夕方と違って昼間はお客が多い。 今のようにポスシステムなどが無い時代で、値札を見てはカチカチとレジに打ち込み次から次にやってくる客をせっせせっせと捌いていた。

 

『お元気そうですね。』

 

もくもくとレジに打ち込む私の耳に聞こえてきた声に顔を上げると、銀行の彼女がいた。 あのときのままの笑顔でそこに立っているのが夢か幻と思ったほどだ。 絶句した私に彼女は尚も続けた。

 

『ここでバイトしてるんだ?』

 

『あ、え~っと。 俺のこと覚えてるんすか?』

 

『覚えてるわ。 銀行に勤めていてあんなふうに話しかけられたのはあなたが最初で最後だったから。』

 

『あ、あ、え~っと。』

 

そうこうしている内に彼女は店を出て行ってしまった。 追いかけたい気持ちをぐっと抑え、次から次にやってくるお客さんに忙殺された。

 

その日の夕方の私はかなり興奮していた。

 

『ほら、昔話した九州銀行の彼女! あの子が今日さ来たんよ!』

『ああ、なんか前に言いよったね。 相当なベッピンやろ?』

『そうなんよ。 もう3年ぶりくらいか?』

 

だが、そのときの興奮も時が経つにつれやはり薄れていった。 年が明けやがて春休みを迎えた。 天神では春のバーゲン真っ盛りだったので私は友人を連れ立って洋服を買いに街に出た。 いくつか店舗を廻って疲れたので休憩しようと近くの喫茶店に入った。

 

友人と、休憩後のことを相談していたとき、隣のテーブルから声をかけられた。

 

『あら、またこんなとこで。』

 

彼女だった。 彼女は友人と思しき女性と二人でアイスコーヒーを飲んでいた。 連れの女性が誰?と問いかける。

 

『あ、そういえば名前。何だったっけ?』

 

『ああ、宮尾です。 宮尾登美雄。』

 

『そうだそうだ。 彼ね私が前に務めてた銀行に来てカウンターで私の事を口説いたのよ。』

 

『ああ、いや、まあ。口説いたというか・・・』

 

『私はシュカって言うの。あらためてヨロシクね登美雄君。』

 

『シュカ・・・夏の生まれなんですか?』

 

『さすが学生さん。よく勉強してるわね。 そうよ夏真っ盛りの8月生まれよ。』

 

私は頭の中で 『朱夏』 と書いてみた。

 

『へえ、登美雄君は何歳なの?』

 

シュカさんの連れの女性が尋ねてきた。

 

『22です。』

 

『じゃあ、私たちの4つ下だぁ。若いわぁ。』

 

『じゃ、そろそろ行こうか』

 

そう言ってシュカさん達は店を出て行った。 私の隣でやり取りを見ていた友人はため息をもらし

『相当なベッピンやね』 と言った。 『追いかけて来ていいか?』 と聞く私に友人は 『ちゃんと戻って来いよ。』 と送り出してくれた。

 

私は急いで店を出て周囲を見回したが見つけることは出来なかった。 ただ彼女への想いを募らせただけだった。

その日から私の頭の中はシュカさんのことでいっぱいだった。 色白の笑顔、スレンダーなスタイル、洗練されたファッション、小鳥の鳴き声のような声、ふわりと包み込むような空気、大きく開いた胸元、そのどれもが私を虜にした。

 

だが、それきり彼女に出会うことも無く数年の月日が流れた。

 

33歳になってすぐ、私は将来の伴侶と出会い、そして翌年結婚した。 結婚生活も仕事も順調で子供にも恵まれた。 そのころには私の頭の中からシュカさんのことは消え去っていた。しょせん叶わぬ恋とあきらめていたことも要因のひとつだろう。

 

40歳を目前に控えたある夏の日。 二日酔いの痛い頭を抑えつつ子供二人を連れて公園に遊びに出かけていた。 前日に立ち寄った韓国人のスナックで銘柄も分からないウィスキーを、いや、ウィスキーのようなものを散々飲まされて、たって歩くことさえやっとだった。

 

子供たち二人を遊ばせて私は木陰で休んでいた。 目の前の滑り台で楽しそうに遊ぶ子供たちをぼんやりと眺めていた。 よその子供が滑り台の順番を守らずにウチの子の前に割り込んだ。 子供たちは文句も言えずに黙って見過ごしている。 私は少し頭にきたのでその子の親を探した。 滑り台の下でその子供を待ち受けている太ったおばさんがいたので、私は近寄って言った。

 

『おたくのお子さん? 順番を守るように注意してよね。』

 

するとその太ったおばさんは私をキっと睨み

 

『順番抜かしされたくらいでグズグズ言わんどってよ』

 

と抜かしやがった。

 

これには流石に温厚な私も頭にきた。 すると、その太ったおばさんが

 

『あれ?登美雄君?』

 

と言うではないか。 私は彼女が誰か思い出せない。

 

『誰?あんた?』

 

『随分、昔だけどシュカと一緒に喫茶店で会ったよね?』

 

ようやく思い出した。 あの時のシュカさんの連れの人だ。

 

『あ~あ~。よく分かったね。17~18年くらい前よね?』

 

それからは思い出話に花が咲いた。 私は性懲りもなくシュカさんのことを思い出し、そして彼女の近況を知りたがった。

 

だが、彼女の話を聞くうちに聞くんじゃなかったと後悔した。

 

『シュカねぇ、あのとき既に結婚してたの。 でもさその相手ってのが悪いやつでさ。 あちこちに借金を作ってて、それを全部シュカに押し付けて逃げたのよ。 それからはもう典型的な転落の人生で、私も今は全然つきあってないの。 だって彼女、借金返済のために風俗で働いて、最後はAVにも出てたのよ。』

 

なんと! そんなドラマみたいなことがあるのか? 私はにわかに信じがたかったが彼女の話しぶりからウソでは無いと感じていた。

 

私は今でもレンタルビデオショップに行くとシュカさんが出演しているAVを探している。

 

私が本当に会いたいのはあの頃の彼女ではなくAV女優としての彼女だった。

 

合掌



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