762発目 毎日があなたとの記念日の話。


記念日

誰しも大事な記念日って
あるよな?

それは例えば結婚記念日とか
会社の創立記念日とか。

 

『ああ、あれから15年だね』

 

とか言いながら
時の流れを感じたり
あの頃のままの自分に
照れたりしながら
祝うあの記念日のことさ。

 

特に結婚記念日なんて
忘れちゃダメな記念日ランクで
毎年1位になるくらいの、
記念日界のサザンオールスターズ
って言われてるくらいの
大事な日だろ?

 

私はちなみに
忘れないように
死んだじいちゃんの
誕生日に入籍したもんだから
女房の方が一向に
結婚記念日を覚えてくれなくて
困ったりほっとしたり
ラジバンダリ。

 

記念日と言えば
いつもこの話を
思い出す。
甘く酸っぱい
私の青春時代の
1ページはこんな
話だ。

 

 

バイト先のヒロシが
相談したいことがあるから
と話しかけてきたのは
バイトの時間が終わる
10分前くらいだった。

店内の有線からは
そろそろ蛍の光が
流れ出すころだ。

私とヒロシが
アルバイトでレジを
打っていたのは
国道沿いのスーパーで
近くに学生が多いこともあり
深夜近くまで
営業していた。

周囲には学生向けの
飲食店が立ち並び
深夜と言えど
人出もあり賑やかだ。

バイトが終わり
戸締りをして
私とヒロシは
行きつけの焼き鳥屋に
向かった。

店内は満席ではなかったが
それなりに混んではいた。

カウンターの端っこに
通された私たちは
とりあえずビールを
頼んだ。

軽く乾杯したあと
ヒロシは話し始めた。

 

『サトルちゃんはさあ。
やっちゃんとお祝いしたり
するとか何かある?』

 

やっちゃんとは当時私が
付き合ってた女の子だ。

 

『ああ、クリスマスとか?』

 

『いや、そんなんじゃなくて
付き合いだした記念日とか』

 

『ああ、何周年とか?
1年目の時はやったなぁ。』

 

『それ以外はないよね?』

 

『それ以外?』

 

『そう。付き合いだした
記念日以外の記念日』

 

『ああ、それなら
4月12日かのう』

 

『何なん?4月12日は
何の日なん?』

 

『ガガーリンが初めて
月に降り立った日やないかい』

 

『何でそんな日を祝うん?
地球はおろかこの日本からも
出たことないサトルちゃんがさ?』

 

『お前が記念日なんか言えっち
言うけんやろうが。
ひねり出したとぜ、これでも』

 

『違うんよ。なんかさ
彼女と俺らだけの記念日みたいなさ
そうゆうやつはないと?』

 

『付き合いだした日以外
あるか!そんなもん。
なんやったら、その日ですら
うろ覚えやんか、こっちは。』

 

『そうやろ?
普通そうよね?』

 

ヒロシはこの頃、
市内の短大に通う
山口県出身の女と
付き合っていた。
名をケイコという。

 

『いやさ、ケイコがね
記念日を覚えろって
怒ってくるんよ。』

 

『記念日っち言うたって
お前らまだ付き合いだして
4か月くらいやろうも?
何の記念日を覚えとかなん?』

 

『最初に言われたのが
付き合いだして1か月目と
2か月目と3か月目と4か月目』

 

うわ~めんどくさ~

 

『で、毎月8日が初デート記念日』

 

『何かマルキョウの
卵1パック98円の日みたいやの?

いや、てゆうかお前ら
付き合いだした日を
毎月祝っとるん?
何日なん、それ?』

 

『毎月16日』

 

うわ~、覚えにくい~

『いや、それはやりすぎやろ。
死んだじいちゃんの月命日やんか
それじゃ』

 

『それと・・』

 

『まだあるんか!!!!』

 

『キスした記念日が11日』

 

『それも毎月か?』

 

こくりとヒロシがうなづく。

 

『あと、手をつないだ日、
初めてエッチした日、初めて
お泊りした日。』

 

『それ全部覚えないかんと?』

 

『いや、無理やけカレンダーに
書いとる。』

 

『そらそうやの。
そんなん覚えられるくらいなら
もっといい大学行っとるわの』

 

『もうさ、どうしたらいいんかねぇ?』

 

ヒロシはカウンターに突っ伏し
頭を抱えて嘆きだした。

 

『しんどいなら
別れたら?』

 

私は他人事なので
あっさりと結論を
出してあげる。

 

『なんて言って別れるんよ!
あいつの事やけしつこく
理由を聞かれるばい?』

 

『そこはお前・・・・
正直に言うしかないやろの。』

 

『なんて?』

 

『記念日が多すぎて
覚えきらんって』

 

『弱いやろ、それじゃあ。』

 

結局、結論は出ないまま
その日はお開きにした。

 

後日、ヒロシとバイトのシフトが
一緒になった日、またも
帰りがけにヒロシが話しかけてきた。

 

『サトルちゃん、帰り
ちょっと付き合って』

 

バイト先からでて
駐車場を横切った所にある
喫煙所でヒロシを待った。

着替えを終えたヒロシが
向こうからやってくる。
妙に晴れ晴れとした
表情だった。

 

『どした?
解決したんか、記念日問題は?』

 

『そうなんよ。
うまく行ったわ。』

 

『どうなったん?』

 

『23日が初エッチ記念日
やったんよぉ。
で、カレンダーに書いとるのに
俺さ、すっかり忘れとって
バイトに来とったんよ。
バイト終わって家に帰ったら
山ほど留守電にメッセージが
入っとってさ。』

どうやら怒り狂って
いたらしい。

『だけんさ、次の日の
初お泊り記念日も
もうなしでいいんかなぁ?って
勝手に思っとったらさ・・』

 

『もうさ、初エッチと初お泊りは
同じ日でいいんやないんか?』

 

『俺もそう思うっちゃん。
でもケイコがそげん言うけん。
いや、ほんでさ、24日も
忘れとったったい。
ほんなら怒りがピークに達してさ
もう別れる!って』

 

『あら、向こうから?』

 

『そ。助かったわ~』

 

『ああ、まあ良かったの。
じゃあ飲みに行くか。』

 

『そうやね。
今日は俺の解放記念日や!』

 

染まっとるやないかい!

 

キネンビヲイワオウ

合掌

 

 

 

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