704発目 宛名に問題があった話。


気がつかないうちに
犯してしまった小さなミスに
後になって気がついて
死ぬほど後悔する

そんなことって
あるよなぁ。

トウ君って男は
そんなミスをする男だった。


悲しいことに
同性の私から見ても
彼は決してハンサムでは
なかった。

加えて、その身なりと言うか
ファッションセンスが、かなり・・
その・・・
言いにくいのだが・・

ダサい


のだ。

ブカブカのジーンズを
ロープのような細いベルトで
ギュッと絞めて履いてるので
最初は土嚢袋を履いてるのかと
思ったくらいだ。

首の部分がヨレヨレになった
ブカブカのTシャツは
元が何色だったかが
分からないくらいに
色あせていた。

胸のところに
GENIUS
と、うっすら書いているのが
かろうじて読み取れる。

心の中で
「全然ジーニアスじゃない」
と突っ込む。

英語が苦手な方に
一つだけ教えよう。
Genuisは日本語で天才という
意味だ。

そんなトウ君でも
一人前に色気は持っていて
「気になる女の子がいるんだ。」
と私に相談してきた。

「彼女と仲良くなりたいのだが
どうしたら良いだろう?」

私にとっては
トウ君の恋路には
まるっきり興味がない。

そっけなくこう返事した。

「手紙でも書けば?」

意外にもトウ君は
その提案が良かったのか

「なるほど~。
ラブレターかぁ。
さすがヤマシタ君やね。
君に相談して良かったよ」

そう言って
喜んで帰って行った。

数日後

ピンク色の封筒を片手に
しょげかえったトウ君が
私の前に現れた。

「どうした?」

トウ君は、小さな声で
「振られた」
とだけ、言った。

「なんで?手紙は?」

「封も開けずに返された。」


どうした?
状況が呑み込めないぞ。


トウ君から聞いた話を
要約するとこうだ。

バイトの終わりに彼女を呼び出した。
そして一晩かけて
自分の思いを書き溜めた
この手紙を渡した。
彼女は最初、
恥ずかしそうに手紙を眺めていたが、
やがて「いらない。」
と冷たく言い放ち、
その場を立ち去った。


原因はその
ピンクの封筒にありそうだ。

「トウ君、ちょっと
その手紙、見せて」

私はそのピンクの封筒を
受け取り、彼女が
怒った原因を探した。

「トウ君、彼女の名前は
なんていったっけ?」

「ああ、カオリちゃん。」

トウ君の書いた手紙の
宛先のところには
こうかいてあった。

住職ちゃんへ。

トウ君、
これ。

「カオリじゃなくて
ジュウショクになっとうよ」

私はトウ君に正解を
書いてあげた。

住職→佳織



あれから25年以上が経過した。

風の便りによると
トウ君は今も
独身らしい。


ソリャアフラレルワ

合掌

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