688発目 接吻の話。


愛する相手が自分の射程距離に入ったらどうする?

 

もちろん抱きしめるよな?そしてどうする?

 

きっと相手は目を閉じるぜ。

 

だから俺はそっと接吻(くちづけ)をするんだ。

 

愛する人が射程距離に入ったらなんてまどろっこしいことなんて言ってられない!そんなオフェンシヴな野郎どもはきっと自ら相手との距離を詰めて一気に勝負に出るんだ。向こうが来るのなんて待ったりしない。

 

そんなオフェンシヴな野郎だって幼い頃は「接吻(くちづけ)」なんて口にするのも恥ずかしかったもんだ。かろうじてロックバンドの「KISS」を赤面せずに言えたくらいだろう。うぶだったな。でもそんなうぶな時期は長くはなかった。最初のゴールを決めてからの野郎どもはメキメキと頭角を現し、あっというまにチーム一のストライカーへと成長する。

 

俺?俺はそうだな、若い頃はかなりのストライカーだったぜ。相手に考える隙なんか与えたりしない。あっという間に距離を詰め、片手で抱き寄せると、もう一方の手で髪の毛を向こう側にかき上げ、素早く唇を奪う。

 

そんなエースストライカーとして名を馳せた俺も接吻(くちづけ)をしなくなって随分と時間がたつ。引退した元エースストライカーなんて何の役にも立ちはしない。ゴール前でパスを受けたしマークも振り切って完全にキーパーと1対1なのに・・・ゴールが決まらない。

 

狙った獲物とは毎日会っている。距離も詰めた。なのに、なのに・・・・・まるっきりゴールが決められない。

 

 

「ほら!お父さんとチューしようか~!」

「やだ~~~~~~~!」

 

え~っと。

煙草もやめたし、胃の中のピロリ菌も除菌したし、きちんと歯磨きもしてるよ、俺。

 

きっと接吻(くちづけ)するなら今だよ。今が俺の人生で最も最高の状態だと思うよ。

 

「ほら、きちんと言うこと聞かんやったらお父さんにチューしてもらうよ?」

「やだ~~~~~~~!」

 

 

 

ソンナニイヤガルカ?

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