カナブーンというバンドがある。 楽曲は聴いたことがないが、名前だけは知っている。 「KANA-BOON」と表記するそうだ。
彼らを知ることになったきっかけは、一つのニュースだった。
周知の読者も多いと思う。 女優の清水富美加がこのバンドのメンバーと不倫をしていたというニュースだ。
ロックバンドと女性タレントの不倫が立て続けに起きたことで、「オレもバンドやろうかな?」と思ったヤツは意外と多いのではないかと、私は睨んでいる。
どんな音楽を演奏しているのか?と気になったが、わざわざ聴いてみるほどの価値が無いと判断した。 なぜなら、「ロックバンド」と呼ばれている彼らのルックスがおよそ「ロック」とは程遠い、なんとも情けない出で立ちだったからだ。 気色悪いと言っても良い。 ファンの人には申し訳ないが、私の中でのロックの定義には彼らは当てはまらない。
いつの時代だって、若者が好む音楽は年長者から気に入られない。
私が若いときに良く聴いていたパンクロックやハードロックなどは、おじさんからしたら「うるさいだけの騒音」 と一蹴される。
まさか、私がその 「若い奴らが聴くような気に入らない音楽」って言う立場になろうとは、予想もしてなかった。
が、ともあれ、件(くだん)のカナブーンは現代の若者の支持を集めているというのは紛れも無い事実だ。
だから、私より年長である部長の口から「カナブン」という単語が出てきたことが驚きだった。
「部長、カナブンをご存知でしたか!」
と、口には出さなかったが、「信じられない!」という気持ちで部長の顔を見てしまった。
話の流れから言って、昆虫の「カナブン」のことではなかったし、ましてや朝礼での出来事だったので、昆虫の話であるはずもなかった。
「カナブンも成績が悪いな。全国ランクでも下位のほうだ。」
成績?
全国ランク?
いったい、何の?
CDの売り上げか?
朝礼での話題は、覆面調査員が我が社の店舗を客の振りをして訪れ、接客態度がどうだったかを点数をつけていくという、実に陰湿なシステムによる採点の結果のことだった。
どこどこの店舗が接客1位だ、とか どこどこの店舗は去年も悪かった、とかだ。
それとカナブンがどう繋がるのだ?
え~い。 聞くは一時の恥、というではないか!
私は思い切って発言した。
「部長、そのカナブンっていうのは、なんのことでしょうか?」
静まり返って部長の訓話を聞いていた他の社員も一斉に私の方を見た。
その視線の意味するところが 「ヤマシタよくぞ、聞いてくれた!」 なのか 「なんだヤマシタ、そんなことも知らないのか?」 なのか判然としなかったが、私は部長の言葉を待った。
「ああ、金沢文庫のことだよ。」
なんと!
金沢文庫のことをカナブンって略したのか!!!!
嘘だろ?
また、あの時みたいにオレを騙そうとしてるんだろ?
「ホントに金沢文庫のことをカナブンって略すんですね?」
私は念を押した。
「ああ、大丈夫だ。」
その返事は、私を混乱させるに十分だった。 「大丈夫だ、誰も使ってないから羨ましがられるぞ」 なのか 「大丈夫だ。細かいことは気にするな」 なのか?
結局、噛み合わないまま一日を終え、私はモヤモヤしたまま帰宅した。
自宅のソファーでくつろぐ奥様にそのことを伝えた。
「金沢文庫のことをカナブンって略すらしいぞ。」
「何ね、それ? 図書館?」
アア、カミアワナイ
合掌