トンコツラーメン、お好み焼き、定食。 全てにおいて美味しくて安い。できれば駐車場がある。
これらは私が昼食を摂る時の絶対条件である。 ただし、ここ横浜での情報があまりにも不足しているため、二番目の条件である「美味しい」に関しては、勘を働かせるしかない。 なにしろ、ほとんどの店において私は「一見さん」なのであるから。
若手の営業マンはスマートホンを操って、その店の評判や値段などをチェックしてから入店するらしいが、それではダメだ。 勘が鈍るだろ?
常に獲物を捕らえる鋭い視線で、店構えや暖簾の具合、駐車場に停まっている車の数などを観察し、総合的に「イケる」 と判断を下さなくてはならない。
一つの基準としては、そこそこ客が入っていることも条件の一つと言える。 昼の書き入れ時に客がまったく入ってない店は恐ろしい。
その日、私が選んだお好み焼き屋は11時55分の段階で私の貸切状態だった。
「やっちまった!」
と思ったが時既に遅し。 逃げられないようにか、たまたま空いていたからか判然としないがとにかく私は店の一番奥に位置するテーブルに通された。
間髪入れずに他の店員がお絞りとお冷を持ってきた。 メニューはテーブルに置いてある。 まあ、しばらくすれば客でごった返すのかな?と楽観的になっていた。
予想通り、数分もしないうちにドヤドヤと大勢の客が来店した。 とたんにさっきまでの静寂が嘘のように店内は喧騒に包まれ、奇しくもお好み屋らしい状態にはなってきた。
一番奥の私のテーブルを取り囲むように3つのテーブルに分かれた主婦と思しき団体が座った。 彼女達は皆一様にうるさかった。
五月蝿い、と書いた方がしっくり来るだろう。
「コバヤシさん、ごめん、お冷そっちまわして~」
「こないだミサキさんの旦那さんに駅でバッタリ会ったわよ~。」
「あらあ、女と一緒じゃなかった~?」
「や~だ~。ぎゃはははは!」
五月蝿い。
「あ、注文注文。 え~っとカワノさん何にする?」
「え~、私そのランチセットにしようかしら?」
「ああ、これいいわね。コーヒー付くんだ?」
「え!安くない?これで650円なの?」
「違うわよセットは別料金でプラス300円よ」
「あらやだ、ホント。老眼だから見えなかったわ。」
「老眼、関係ないじゃ~ん!」
「ぎゃはははは。」
かなり五月蝿い。
「あ、でもミサキさんの旦那さんってしゅっとしてるわよね?」
「そんなことないわよ!お腹なんかポコンって出てるし。」
「そんなのお互い様じゃなーい!私なんか胸よりお腹の方が出てるわよ。」
「ぎゃははははは」
まだ五月蝿い。
「あ、みんな来た?じゃ、カンパーイ!」
「え~お冷で乾杯なの~?」
「だってみんな車じゃ~ん!」
「そだね、じゃ、お疲れ様~」
「ぎゃはははははは」
ずっと五月蝿い。
「あら、これ焼いてくれんの?」
「あらあ、助かるわ~、私へたくそなんだよねぇ。」
「あ、飲み物どうする?先?後?」
「先にもらおうかしら?お代わり自由?あ、違うの?」
「じゃあ、後よ~。食べた後ゆっくりしたいもの~。」
「そうよ。食べた後ゆっくりしないと太っちゃう。」
「もう遅いわよ!」
「ぎゃはははははは」
とても五月蝿い。
「あ、店員さ~ん!ちょっとちょっと。」
「はい、お待たせしました。」
「あのね、これ何かしら?有線?」
「あ、いえ、あの~CDです。」
「何かしら?ロックなの?」
「ああ、ええまあ。」
「五月蝿いから切って頂戴。」
ぅお前が言うなぁ~~~
こうして私の昼食の条件に一つ加わったのが
「ババアがいないところ」
だ。
女3人集まると姦しい(かしましい)と書くが、本当に五月蝿かった。
「またお越しくださ~い」
ダレガクルカ!
合掌