父親の口癖は 「こんなん、生まれて初めてや!」「今日が人生で最高の日や。」 だった。
主に、母親が作った料理に対して発せられていた。 そのセリフを聞くたびに母親はあきれた顔で
「なんがね。前にも作ったやんね。」
と返す。
おそらく父親なりの配慮と照れが、こういうセリフに形を変えたのだろう。 今なら分かる。
「お母さん、今日のカレーはおいしいね。」
と言うより
「こんな美味いカレーは生まれて初めてや。」
と言うほうが真実味がある。
父親はことあるごとに母親を褒めていた。息子の私はこれまでに1回しか褒めてくれないのに、だ。(571発目 褒められてない話。参照)
息子と娘も、私の実家に帰ったときにはこの表現を体験している。
「ほほう。5歳なのに自転車に乗れるようになったか。 そんな子がおるとは、じいちゃん生まれて初めて聞いたわ。じいちゃんの人生で今日は最高の日や。」
「ほほう。3歳なのにお母さんのお手伝いが出来るんか。そんな子は生まれて初めて見たわ。じいちゃんの人生で今日は最高の日や。」
子供たちは素直に喜び、私に報告をしに来る。
「じいじに生まれて初めて見たって言われたよ。人生で最高なんだって!」
「明日も同じこと言うぞ」などと無粋なことは言わない。 「良かったね」と笑い返す。
8月の末にまとまった休みが取れた。 所謂、夏休みというヤツだ。 だから3年ぶりに実家に帰ることにした。子供たちは旅行気分で今からソワソワしている。
特にじいちゃん大好きな娘は 「じいじに会える。」 と喜んでいる。
そして、晩御飯のたびに
「お母さん、今日のごはんはおいしいね。初めて食べたよ。今日は人生で一番最高の日やねえ。」
と言っている。
「あんたはまだ6歳にもなってないやんね。これからもっと最高の出来事があるよ。」
「お父さんにとって人生で最高やったのは何?」
そう聞かれたら私だってカッコいいことを言わなければならない。
「お前たちが生まれたことよ。」
娘はブスっとした顔で
「ちぇ、もう終わったことやん。」
と言った。
コイツイミガワカッテナイナ
合掌