580発目 ロックな話。


プレスリー

小さいころの我が家は、夕食時になると父親がテレビを消してレコードをかけていた。 ナッキンコール、ビリーホリデイ、マディーウォーターズなどのブルーズの時もあれば、エルビスプレスリーやエディコクラン、バディーホリーなどのロックンロールの日もあった。 割合としてはロックンロールのほうが多かったかな?

 

その中でも好きだったのはバディホリーだ。彼のバンド「ザ・クリケッツ」はギター2本、ベース、ドラム、という後のバンド編成の基本形を作った人だった。 彼の活動はほんの2年足らずだったが、後にビートルズやローリングストーンズに多大な影響を与えた。 ロックンロールの基本ともいえる彼の音楽が大好きだった。

 

音楽の趣味はその後も変遷し、ヘビーメタルやパンクロックなどを聴いた時期もあったが、根本的に好きなのはやはり1960年代のロックンロールだった。 20代になると、それなりにこだわりも出てきており「ロック」と略すのが嫌でしょうがなかった。Bluesはきちんと「ブルーズ」と発音するし、R&Bなどという下衆な言い方も好まなかった。きちんと「リズムアンドブルーズ」と発音することが格好良いと思っていた。

 

小さなころから慣れ親しんでいる音楽のジャンルなので、その薀蓄に関しては誰にも負けないと自負していた。

 

大学のときに知り合った女の子がいた。 コンパで知り合ったのだが、二次会のカラオケでバディーホリーの「メイビーベイビー」を歌ってくれた。同年代の、それも女子で、この年代の音楽を知っていること出会ったのは初めてだった。

 

「この年代のロックンロールが好きなん?」

 

そう尋ねる私に対してその子は、

 

「嫌いな人はいないはず。」

 

と力強く答えてくれたことも印象的だった。

 

年が明け、冬休みが終わるころ、彼女の友達、つまりコンパで同席した別の子から電話があった。

 

「1月8日にあの子の誕生日会をするからさ、サトル君もおいでよ。」

 

私は二つ返事で了承し、プレゼントを買いに街に出かけた。 品物はもう決めていた。 バディホリーの楽曲を集めた海賊版のCDだった。 どうしても彼女が歌ってくれたメイビーベイビーが忘れられなかったのだ。

 

誕生日パーティ当日、男性で呼ばれてたのは私一人だった。 少し居心地の悪さも感じたのでプレゼントを渡したら辞去しようと思った。 私は彼女に近づきラッピングされたCDを彼女に手渡した。 彼女は 「開けていい?」 と聞いてきたので私はにっこり笑って首肯した。

 

包みを開けて中のCDを見たときの彼女はとてもうれしそうだった。

 

「私の2番目に好きなシンガーよ。」

 

彼女はそう言った。続きを聞いて欲しそうな言い方だった。 だから私はその先を促すようにこう尋ねた。

 

「一番は誰?」

 

この時点で、自意識過剰と言うか、少なくない期待というか、彼女に対する大きな好意を持っていた私は、もしかしたら彼女はこう答えるんじゃないか?と思っていた。

 

「一番はサトル君よ。」

 

だが、現実とはそううまくは、いかない。 彼女はその持ち前の素敵な笑顔をたたえたまま、あっさりとこう答えた。

 

「エルビスプレスリー」

 

そしてこう続けた。

 

「今日は私の誕生日だけどエルビスの誕生日でもあるの。 だから今日はロックの日って呼ばれてるの。」

 

ロックンロール薀蓄で負けないと自負していた私が知らない事実だった。 その日まで私は6月9日がロックの日だと思っていたのだ。

 

「私の父はオールディーズが大好きで、子の日に生まれた私にこんな名前をつけたのは、ロックンロールの申し子だと思ったかららしいの。 でも私は結構自分の名前は気に入ってるんだ。 ね?この話を聞いたら絶対私の名前を忘れられないでしょう?」

 

あれから25年が経ち、今日6月9日を迎えた。 今日はロックの日じゃない。 1月8日がロックの日だ! ってことを思い出した。 そして今日は帰宅したらバディホリーを聴こうと思っている。

 

「ね?私の名前を忘れられないでしょう?」

 

ごめん。

 

ワスレタ

 

合掌

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