566発目 悪魔の黒い粉の話。


ユルブリンナー

覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?

 

私は覚せい剤の使用経験は無い。が、その恐ろしさは知っている。 同級生の一人は、ここではそいつのことをフルホンと呼ぼう。 フルホンは海外から覚せい剤を密輸入する仕事に手を出した。というのも彼は高校を中退したあたりから覚せい剤を日常的に使用するようになっていた。覚せい剤はその名のとおり、寝なくても平気になる、つまり常に覚醒している状態になれる。フルホンは拾ってきたバイクをばらばらにし、ネジの1本1本を丹念に磨いていた。そして新車同様に磨き上げて転売していた。 もともと手先は器用だったのだが、早く現金を手にしたいがために覚せい剤を使用し、3日3晩一睡もせずにネジを磨いたのが始まりだった。

 

もともと彼は頭が悪い。新品同様のバイクとはいえ、しょせん中古は中古だ。売れたとしても5万円程度だった。その5万円を手に入れるために覚せい剤を購入した。0.1g8,000円という値段が高いのか安いのか私には判断がつかない。覚せい剤が怖いのはバイクを磨かないときにも使用したくなるという点だ。結果彼はすべてのやる気を失い、毎日を怠惰に過ごし、とうとう覚せい剤欲しさに犯罪に手を染めた。

 

最初は空き巣だった。 だがリスクの割りに実入りが少ないことに気がついた彼は覚せい剤の売人に相談した。薬が欲しいが金は無い、どうしたら良いか?

 

売人はすぐに仕事を用意してくれた。 フルホンは売人から飛行機のチケットと小さなオブラートを手渡された。空港まで車で送り届けられたフルホンはその足でフィリピンに行く。 ニノイアキノ空港に着いたフルホンは額に傷のある男に声をかけられた。 英語なんてThis is a pen くらいしか知らないフルホンは額に傷のある男のブロークンイングリッシュなど、到底理解できない。 だが、問題は無かった。 空港の片隅の人気のいないところに連れて行かれたフルホンはパケと呼ばれる1gずつに分けられた覚せい剤の包みを10個ずつオブラートにくるんだ。およそ20個のオブラートの包みが出来上がった。しめて200gだ。末端価格はいくらになるかは想像がつかない。フルホンはその包みを持って空港の待合ロビーに向かった。

 

搭乗予定の飛行機に乗る直前、フルホンはそれらのオブラートの包みを丸呑みした。この時点でフルホンは知らされてなかったのだが、オブラートが胃液により溶け出すと覚せい剤の大量摂取で死にいたる。タイムリミットは6時間。ニノイアキノ空港から福岡空港まで順調に行けば3時間45分だ。搭乗前後にかかる時間がおよそ1時間ずつとしてあわせて2時間。そうすると到着後、腹の中の覚せい剤を吐き出すのにフルホンに許された時間は、わずか15分ということになる。

 

機内食に手をつけると胃液が活性化するので、機内では食べ物はもちろんのこと、飲み物さえ許されない状況だった。

 

しかし警察だってバカじゃない。スチュワーデスが機長に、機長は管制塔に、管制塔は空港警察に伝言ゲームのようにフルホンの存在を報告された。 「機内食もお酒も水でさえ、口にしないお客様がいます。額には絵に描いたような脂汗がびっしりです。」と。

 

空港に着いたフルホンはすぐに警察に拘束され胃の中身をすべて吐き出させられた。 当然、密輸と薬物所持のダブルパンチで逮捕されたフルホンは、取調室に連れて行かれ売人の名前や、薬の受け渡し方法など、洗いざらい吐かされた。 吐いて吐いて吐きまくった。

 

フルホンは数日後に実刑が確定し、そのまま私達の街から姿を消した。きっと今頃は人間をやめて野良犬のような生活をしていることだろう。

 

何が怖いって? 一度 始めたら、やめたくてもやめられないってことだ。 やめたいのに、だ。

 

俗に覚せい剤のことを「悪魔の白い粉」という。

 

では、皆さんは「悪魔の黒い粉」をご存知だろうか?

 

私も実際には見たことはないが私の会社の同僚の数人は実際に「ソレ」を見たことがあるらしい。 「ソレ」どころか「ソレ」を使用している人まで見たそうだ。

 

その人は、少しの距離でも雨が降っていたらタクシーを使いたがったそうだ。不自然なほどに髪の毛が黒々としていた。つい昨日までシャワシャワの薄毛だったのにもかかわらずだ。

 

急に薄毛の人が真っ黒な頭で出社してきたときの周囲の驚きは想像に難くない。 誰もが知りたがった。「その頭はいったい、何ですか?」と。

 

みんなの疑問を解消してくれたのは頭髪に完全に見はなされた男だった。 そう。 彼だけは薄毛の人が見下せる唯一無二の存在だ。何しろ頭髪がまるっきり無い男だからだ。 登記簿上は「更地」と呼べるほど何もない頭の男は、その人に聞いた。

 

「その頭は何をやってるんですか?」と。 その人は彼に仲間意識を持っていたのか、こう答えた。

 

「髪の毛が多く見える黒い粉を振ってるんだ。」

 

おいおい、もしかしてそんな子供だましみたいな方法でハゲが隠せるとでも思ってるのか?と全員はあきれたそうだ。

 

この黒い粉がなぜ「悪魔の黒い粉」と呼ばれるかというと、覚せい剤と同じく、一度 始めたら、やめられなくなるのだ。

 

一度 始めたらやめたくてもやめられないのだ。 やめたいのに、だ。

 

家族の同意もあったらしい。 最初の頃は奥様が振ってくれてたのだろう。後頭部までビッシリと黒い粉で包まれた頭はまるで磁石についた砂鉄のようだったとのことだ。

 

黒い粉がやめられないまま、月日は流れ、やがて奥様も粉を振る作業に嫌気が差してきたのだろう。そればかりか、毎日毎日、ワイシャツの襟を真っ黒に汚して帰ってくるダンナに辟易としていたのかもしれない。「洗濯するのは私なのよ!」と。 「他の洗濯物にまで色移りするじゃないの!」と。

 

その頃の彼は自分が鏡で見える範囲しか粉を振ってなかったそうだ。 想像してみてくれ。 前髪の辺りと頭頂部だけが黒々としている男の姿を。

 

「上方よしお」の様だったのではないかと推測する。 「のりおよしお」の「よしお」だ。

のりおよしお

こんなになっても、やめられないなんてまさに 「悪魔の黒い粉」じゃないか!

 

黒い粉やめますか?それとも

 

ハゲニナリマスカ?

 

合掌

 

 

 

“566発目 悪魔の黒い粉の話。” への1件の返信

ウチナーンチュ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

*