換気扇から異音がする、と入居者から連絡があった。在宅日時を確認し、指定の時間に訪問する。まずは症状の確認だ。スイッチを切っている換気扇の換気口から「ふるっふ~ふるっふ~」と音がしている。ためしにスイッチを入れてみると「ふるるるるるる」と、先ほどとは少し違う音がする。
「何の音でしょうか?」
入居者から聞かれるが、私にも分からない。首を傾げるしかない。
「鳩が鳴いてるみたいな音ですよね。鳩が挟まってるんですかね?」
まさか! でも確かに鳩が鳴いてるみたいな音がする。スイッチを切ってみた。音は聞こえない。
「あれ?直ったのかな?」
二人とも無言になり、もう一度、音が鳴るんじゃないかと換気口を眺めている。
「大丈夫そうですね」
2分ほど待ったが音はしなかった。私は「じゃ、これで失礼します。」と挨拶を済ませ玄関に向かう。
「すみませんでした、お忙しいところ。なんだったんでしょうね?」
「何でしょうか?風が逆流してるのかもしれませんね。今日は風が強いから。」
「いや、でも数日前から鳴ってたんですよ。もう気持ち悪くて。」
「ま、でもとりあえず鳴り止んだし、もう少し様子を見てください。」
と、私はヤブ医者のような科白を吐く。
靴を履き、玄関扉に手をかけた。しばし静寂。もう一度耳を澄ます。
「やっぱり、もうしませんね。」
「ですね、ありがとうございました。」
「いえ。また、鳴り出したらお電話ください。別の原因を探って見ます。」
翌日、もう一度、電話があり、昨晩から鳴り出したとのこと。お昼までなら在宅だから、もう一度足を運んでくれ、とのこと。私は工具箱を車に積み、再度、訪問する。
玄関を開け、キッチンへと向かう。キッチン入り口のドアを開けた瞬間に、かすかに音が聞こえてきた。
「ふ~ふ~ふ~。」
「あれ?昨日とはちょっと違った音ですね。少しボリュームが弱まった、というか・・」
「そういえば、そうですね。何でしょうか?鳩でしょうか?」
何故、この人は鳩にこだわるのだろう? 私は思いつきで聞いてみた。
「もしかして飼ってた鳩がいなくなったとか?」
「まさか、平和の象徴ですよ。」
「ですよね~。」
私は換気扇カバーを留めているネジを一つ一つ丁寧に外し、カバーを外してみた。 正常に動いていたし、もちろん鳩はいなかった。 カバーを元に戻し、スイッチを切って耳を澄ます。音は止んでいた。
「鳩、いました?」
「いえ、もちろんいません。」
原因が分からないまま、ヤブ医者発言はもう出来ないだろう。私は玄関から外に出て外壁についている換気扇の出口を見に行ってみた。随分高い位置に換気口が見える。車に戻り脚立を持ってきた。ドライバーを片手に脚立の上に立ち、換気口を開けてみた。
鳩が死んでいた。
クルック~
合掌